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2005年1月5日水曜日

世界物理年

 国連が 2005 年を「世界物理年」(World Year of Physics 2005) と定めた(国連が採択・宣言した正式名称は「国際物理年」であるが、国際純粋・応用物理学連合の決めた「世界物理年」の名称が先行していた)。2005 年は、アインシュタインが、従来の時間と空間の概念を改めた特殊相対論、量子力学の一つの先駆となった光電効果の理論、分子の存在をはっきりさせたブラウン運動の理論、という三つの偉大な論文を発表した「奇跡の年」から 100 年目に当たる。

 日本物理学会では「世界物理年日本委員会」を設け、岡山県立光量子科学研究所主催「物理チャレンジ 2005」(8 月)、物理学会年会においての「ジュニアセッション」の開催(東京理科大学、野田、3 月)、物理学会誌への「日本の物理学 100 年とこれから」連載などを企画している。

 元旦の朝日新聞の「DO 科学」と名付けた第 3 部も、「世界物理年」に触れている。「奇跡の年」の舞台ベルンを歩く、アインシュタイン年表、アインシュタインのひ孫チャーリーの談話、エベリット教授が率いる「時空のゆがみ」測定の人工衛星実験計画、身の回りのアインシュタイン、等の記事を掲載した努力を多としたい。

 前記「日本の物理学 100 年とこれから」の第 1 回は「量子力学:その基礎への日本の寄与」と題して、日立基礎研の外村彰が書いている [1]。その優れた解説は、「"科学技術創造立国" を目指す日本は、今こそ、長期的視点で日本の学術研究を進展させ、50 年、100 年後で良いが、自称でなく他の国からも "科学技術創造立国" と言われる国になってほしい」と結ばれている。これは、政府や文部科学省の人びとにぜひ読んで貰いたい言葉である。

 ただ、外村の解説の文頭近くにある「究極理論を作り上げたノーベル賞の S. ワインバーグ」という言葉は、気になる。ワインバーグは「究極理論」という言葉が題名に入った本を著してはいる [2]。しかし、その書名全体が示す通り、そのような理論は、まだ物理学者にとって夢なのである。ワインバーグと A. サラムが成し遂げたのは、電磁相互作用と弱相互作用の統一であり、「標準模型」と呼ばれているものの一部である。査読者もこの誤りを見落としたとは、お粗末だ。著者の業績が立派でも、解説文に単純ミスがないとは限らないのだから、念入りに精査すべきである。このシリーズの企画が、「物理学の尽きない興味とその魅力を社会に語りかける」[3] というものであるから、その正確さはいっそう重要である。

  1. 外村彰、日本物理学会誌 Vol. 60, No. 1, p. 3 (2005).
  2. S. Weinberg, Dreams of a Final Theory (Pantheon, New York, 1992; paperbound, Vintage, 1994).
  3. 大橋隆哉、久保謙一、日本物理学会誌 Vol. 60, No. 1, p. 2 (2005).

 翌日の追記:上記のミスについて、著者にメールを送ったところ、早速、「確かにその表現は正しくありません。この文章は、編集委員会からも高校生向けにも理解できるようにというご指導を得て、大分訂正しましたので、編集委員とも相談して対応したいと思います」という旨の返事を貰った。


コメント(最初の掲載サイトから若干編集して転載)

テディ 01/06/2005 00:18
 自然界に存在する4つの力、「強い力」「弱い力」「電磁気力」「重力」を全て一つの力として説明しようとする「大統一理論」のさきがけとなった「弱い力」と「電磁気力」を統一したのが、「ワインバーグ・サラム理論」でしたよね。それを「究極理論」と称するのはシロウトのわたしでも "?" ですねえ。

Ted 01/06/2005 08:08
 日本物理学会誌の論文の著者の所属にはメールアドレスも記されていることを思い出し、きょう(6 日)、次号に訂正を掲載することを勧めるメールを外村さんへ送りました。

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