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2007年1月13日土曜日

中間子命名にハイゼンベルクの父が関与

 先に中間子を媒介として中性子と陽子が引き合う核力が生じるという湯川博士の中間子論を、ガモフが、二匹のイヌが一本の骨というエサを取りあって、両側からかみついて離れないという例えで説明している [1] ことを紹介した [2]。昨日、18年も前に買って「積ん読」になっていたガモフの別の本 [3] を何気なく開いてみたところ、同じ例えが、ガモフ自身の描いた漫画入りで述べられていた。そのほかに、次のような、中間子の命名にかかわるエピソードも記されている。

 湯川博士が存在を予言した、重さが電子と陽子の中間の粒子に対して、初めのうち「ユーコン(yukon)」や「重い電子」「軽い陽子」という名前が用いられていた("yukon" の "yu" は、"Yukawa" の "yu" であると同時に、湯川博士が論文中に、この粒子が作る場を "U" という記号で表わしたことにもよるだろう)。そのうち、ギリシャ語で「中間」を意味する "mesos" にちなんだ「メソトロン(mesotron)」が提唱されたが、古典言語の教授だったハイゼンベルクの父親が "tr" が入るのはおかしいと反対した。

 ギリシャ語で「琥珀(こはく)」を意味する "electra" には、もともと "tr" が入っているので、これにちなんだ "electron"(電子)はよいが、"mesos" には "tr" が入っていないので、この語から "mesotron" は作れないというわけである。そこで、フランスの物理学者が、フランス語で「家」を意味する「メゾン(maison)」とまぎらわしいとして反対したものの、最終的に "meson"(メソンあるいはメゾンと読む)に落ち着いたという。――ハイゼンベルクの父親が物理学史の片隅に登場するのが面白い。――

文献

  1. G. Gamow, "Mr. Tompkins Gets Serious: The Essential George Gamow, The Masterpiece Science Edition" (Pi Press, 2005).

  2. 素粒子間の力の例え, Ted's Coffeehouse (Nov. 30, 2006).

  3. G. Gamow, "The Great Physicists from Galileo to Einstein" (Dover, 1988; first published by Harper & Brothers in 1961 with the title "Biography of Physics").

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