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2010年3月5日金曜日

「クォンタム」か「クァンタム」か ("Kwontamu" or "Kwantamu" for Quantum)


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 物理学で「ある単位量の整数倍の値しかとらない量について、その単位量をいう [1]」quantum の語には「量子」という立派な日本語があり、quantum のカタカナ書きには滅多にお目にかからない。

 私は英書で quantum の語に出会うと、心の中で「クォンタム」というカタカナ書きに相当する発音で読んでいた。ところが、1、2年前、朝永振一郎の書いたものには「クァンタム」となっていることに気づいた。なにしろ、朝永さんはノーベル賞物理学者である。「クァンタム」が正しいのだろうと思った。そう思っていたところへ、最近、「クォンタム」の表記に出会った。朝日紙の書評欄 [2] に『クォンタム・ファミリーズ』[3] という小説の書評が掲載されていたのである。はて、どちらが正しいのだろうと、辞書を引いてみた。

 そして、まことに遅ればせながら「クォンタム」はイギリス式発音に、「クァンタム」はアメリカ式発音に近い表記だと知った。朝永さんがアメリカ式発音に近い表記を使ったことは、留学先がドイツのライプチッヒのあと、アメリカのプリンストンだったことからうなずける。どちらも正しく、どちらを使うかは好みの問題なのである。ただし、この際に発音記号についても学び直してみると、アメリカ式発音は「クァンタム」よりも「クァーンタム」という表記に近いのではないかと思われる。そこで、quantum mechanics(量子力学)の出来るだけアメリカ式発音に忠実なカタカナ表記は、外来語の標準表記法にしたがった「カンタムメカニックス」でなく、「クァーンタム・ミケァニクス」となろうか。

 ちなみに、『クォンタム・ファミリーズ』は、現代物理学の一学説である並行世界のイメージを借りて、複線のストーリーを交錯させた作品 [2] だという。

文献

  1. 長倉三郎他編, 理化学辞典, 第5版 (岩波, 1998).

  2. 尾関章, 情報社会の果てに交錯する並行世界, 朝日新聞「読書」欄 (2010年2月21日).

  3. 東浩紀, クォンタム・ファミリーズ (新潮社, 2009).

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