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2011年12月18日日曜日

孫への贈り物 (The Gift to the Grandchild)



【Read in English.】

 「祖母からの贈り物」という随筆 [1] を読んだのは、今年の1月早々のことだった。いま私が書いている文は、そのときから念頭にあったものである。随筆の著者、長谷川三千子さんは哲学者で、野上弥生子の孫、したがって、随筆の題にある祖母とは、この有名な小説家のことである。「贈り物」である弥生子の手紙が、随筆全文のちょうど三分の一のスペースをさいて、文頭に紹介してある。

 その手紙は、長谷川さんが若い頃、文芸評風の文「『細雪』とやまとごころ」を中央公論社の文芸雑誌『海』に投稿するに当たって、「役に立つなら使いなさい」と、祖母が書いて渡したものである。投稿は、この手紙を役立てるまでもなく掲載の運びとなり、祖母の心づくしの文章は三十年以上、孫の机の引出しの奥にしまい込まれていたという。長谷川さんはそれをあらためて読み直し、「これは単なる私信ではなく、祖母の芸術論であり文学論である」と述べている。

 私は長谷川さんの随筆を読んで、自分は孫たちのために何が出来るだろうかと考えないわけに行かなかった。その後間もなく、私の最年長の孫(当時大学一年生)の誕生日が来た。私はせめてもの贈り物として、近年恒例にしている誕生日祝いの英文メールに、自分の経験をもふまえた助言を書いて送った。その助言は、2010年のノーベル化学賞受賞者の一人、鈴木章博士もその少し前の朝日紙に書いていたことだが、大学時代の参考書は日本語訳でなく、原書で読むようにということである。

 それからしばらくして、ツイッターで知り合った海外の十六歳の少年が、アインシュタインを大いに尊敬していて、相対性理論について学校の先生に質問するのだが、相手にされないというので、どのような質問か私に聞かせて欲しいと書き送った。そして、その少年からの相次ぐよい質問に答え続けている。自分の孫ではないが、孫の世代への贈り物として。(彼との問答については、別途、一連の記事にする予定である。)


  1. 長谷川三千子, 祖母からの贈り物, 図書 No. 743, p. 6 (2011).

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