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2019年11月3日日曜日

N・T 氏へのメール -6-:G. H. ハーディの本、真木君の思い出など (Email Messages to N. T. -6-: G. H. Hardy's Book, Memories about Kazumi Maki, etc.)

[The main text of this post is in Japanese only.]


今年は秋に入っても高温の日々が続いたせいか、キンモクセイの開花が例年よりかなり遅かった。写真はわが家のキンモクセイの花。2019 年 10 月 22 日撮影。
This year, the high temperature days continued even at the beginning of fall, and the blooming of fragrant olive was much later than usual. The photo shows the flowers of fragrant olive in my yard,
taken on October 22, 2019.

N・T 氏へのメール -6-:G. H. ハーディの本、真木君の思い出など

2019 年 10 月 9 日
N・T さん

 G. H. Hardy の A Mathematician's Apology には 1967 年版以降に Snow の Foreword がついているようです。先生のはもっと古い版ですか。Dyson の引用している Hardy の言葉[注 1]はどれかの章のトップにありそうだと思い(「あったはず」と思えるほどには内容を記憶していなくて、読了した本ながら、こういう表現になります)、パラパラと見て行くと、第 10 章のトップでした。

 貴殿は私のウェブサイトに掲載していたエッセイ "Surely You're Joking, Mr. Tabata!" (新しい URL: http://ideaisaac.web.fc2.com/joking01.html#sec2。異動先 http://ideaisaac.web.fc2.com の全体はなお未整理です)をご覧になって、東北大へ招いていただいた折に、その末尾の描写が良かった旨を言って下さいました。そのエッセイ中で Hardy の本に触れていました。エッセイに書いた同窓会に参加するための新幹線の車中で一部を読み、会場へ行くと、高 1 で習った数学の女性の先生が来ておられました。ちょうど良いと思って、読んだばかりの 2 の平方根が無理数である証明にまつわる話をしようとしたら、「難しい話、せんといてたい!」と言われたのでした(「せんといてたい」は「しないで下さい」の金沢弁)。

 L 氏がアメリカでテニュアを取得したとは良かったですね。彼の夫人のことは初めて聞きましたが、ひょっとすると先端研の建物の中で一度ぐらい姿を拝見していたかもしれません。ナターシャという名は『戦争と平和』のヒロインと同じですね。学生君の "ai rabu yu!" には笑わされました[注 2]。

 真木君の思い出の追加を書こうと思いましたが、長くなりそうなので、次の機会にします。 T・T


2019 年 10 月 10 日
N・T さん

 "Surely …" に書いてある同窓会「すみれ会」は、高校全体の関東在住者向けの会で、最近私が参加しているのは同期生だけのものです。私の出身高校の名は「菫台」と書いて「きんだい」と読みます。戦後 10 年間存在しただけで(私は中程の第 5 期生)、その後、金沢商業高校に転換されました。戦前の中等学校時代にも金沢商業学校だったのです。「金商・菫台同窓会」という、縦に長いつながりの会も別にあります。

 一つ先にいただいたメールに関してですが、貴殿や真木君の研究対象にも電子の輸送問題というのがあったのですか。私の専門は 1930 年代頃に発行された Handbuch der Physik 中の一つの巻にある一つの章の題名、"Passage of fast electrons through matter" で表されるもので(私の場合の fast electrons は、その章ではまだほとんど述べられていなかった、運動エネルギーが MeV 領域のもの)、最近ではもっぱら Monte Carlo simulation で解決されている問題です。しかし、かつては実験、あるいは transport equation を解くという理論的方法で扱われたので、同じく「輸送問題」の一種ということになります。

 上のパラグラフを書いていて、ふと、以前先生から「Bethe の論文を引用してありましたね」と言われたことを思い出しました。私の論文別刷りをいくつか差し上げていたようです。その Bethe の論文は、M. E. Rose および L. P. Smith と共著の "The multiple scattering of electrons"(1938)で、他の著者たちが、その後、より正確に扱った multiple scattering の理論よりも広範囲(厚い物質層を含む)の、diffusion に至る話もあって、私には興味深い論文です。なお、Bethe が Segré の編集した Experimental Nuclear Physics の Vol. 2, Part II に J. Ashkin と共著した "Passage of radiations through matter"(特にその "Section 2. Penetration of beta-rays through matter")は、私の仕事にとって最重要な教科書の一つでした。

 さて、以下に真木君の思い出の追加を書きます。学生時代の彼はいつも朝早く登校して前の方の席に陣取り、必ず何か本を広げて読んでいました。試験前に級友同士が分からないところを尋ね合って準備している時、彼はいつも回答役でした。また、休み時間に級友たちが輪になって雑談している折に、彼はよく、話題から連想した言葉を高い声でパッと挟み、自分でも楽しそうに笑っていました。

 いつも教え役だった彼に、私が一つだけ尋ねられた記憶があります。それは 2 年生の夏休みに交換した手紙の中ででした。夏休み前に習っていた代数学のテキスト中にあった「合い続く 3 つの整数の積が 6 の倍数であることを証明せよ」という問題が分からないということでした。私は意外に思い、「合い続く 3 つの整数の中には、2 の倍数と 3 の倍数が必ず含まれる。したがって、その積は 2 および 3 のそれぞれの倍数である。2 と 3 は互いに素であるから、問題の積は 2 と 3 の積である 6 の倍数である」という解答案を知らせました。真木君はそれで納得したようでしたが、のちになって、私の案は説明であって、証明になってはいないのではないかと、ちょっと気になりました。しかし、合い続く 3 つの整数をいくつかの場合に分けて、それぞれ、より小さい一つの整数を使って表し、順次検討して行くという、証明らしい方法はとても面倒に思われます。真木君はそういう方法を試みようとして、困っていたのかも知れません。

 真木君についての思い出をもう一つ書こうとしたら、先生が名前をご存知かどうかをお尋ねしたい別の人のことを一緒に思い出しました。すでにかなり長くなりましたので、次回にします。

 T・T

 [注]
  1. N・T 氏のメールに、Dyson の著書 Maker of Patterns の題名が Hardy の次の言葉から来ていることが書いてあった。
    A mathematician, like a painter or a poet, is a maker of patterns. If his patterns are more permanent than theirs, it is because they are made with ideas.
  2. N・T 氏のメールに、L 氏を彼の研究室の助教授として招いて間もなく、L 氏夫妻の歓迎会をした時のことが記してあった。学生一人ひとりに自己紹介をさせると、ある学生は、"ai ..., ai ..., ai ....」と言いながら次の言葉が出て来ず、あげくの果てに、L 夫人に向かって,"ai rabu yu!" と言ったそうである。

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