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2004年12月24日金曜日

「日本の技術は大丈夫か」

 『日本の科学者』2005 年 1 月号に、表記の題で特集が組まれている。10 月初め頃に私がよく訪れたインターネットの掲示板でも、このようなテーマでの議論があり、私も、しろうと考えながら、若干のコメントを書いたりしたので、この特集は興味深い。

 特集は 4 報の論文からなる。平沼高(和光大)は「技能について」と題して、熟練労働者の枯渇化の背景を分析し、高度な熟練内容を次世代に継承する三つの方法と、それが有効となるための最低限の二つの条件を示す。条件の第 1 は、企業経営者が熟練労働者の育成には時間と費用を必要とすることを認識し、たとえ経済不況期にあっても、人材育成政策が変更されないこと。第 2 は、製造現場の作業集団が異世代によって構成され、その内部において互いに教えあう仕組みが組み込まれていること。——これらの条件は、まことに分かりやすい。私も上記の掲示板で第 1 の条件と同様なことを記したかと思う。

 久村信正(三菱重工)は「技術力の低下・崩壊の原因と背景」と題して、三菱重工社でおきた事故・不祥事の原因と背景を検証し、企業と労働者・労働組合に求められている課題を探っている。同社で、この 10 年間につくられた悪い体質を回復する基本は、リストラ・人減らしに始まり、人材流出・技術力低下、事故・トラブル多発、受注減・無償工事多発を経て、業績悪化・競争力低下にいたり、そして、さらなるリストラ・人減らしという、悪循環を絶ち切ることであり、そのカギは、労働者の雇用と生活の安定にある、と結んでいる。悪循環をどこで絶ち切るかを問題にするならば、当然、リストラ・人減らしが問い直されなければならないであろう。

 「技能の伝承の惨状」と題する山口健司(石川島播磨重工)の論文も、自らの職場の実態から、現在、技能伝承が危機的状況にあることを検証し、続発する品質・安全トラブルの原因が、効率第一の労務政策にあり、その根源には、会社の労務政策に誰も意見がいえなくなるような思想差別があったことを鋭く指摘している。いまようやく、企業のトップも「意識改革」の推進、「全員参加」による「コミュニケーション」の大切さに目を向けているということである。

 横山悦生(名古屋大)は、「スロイドの伝統と技術科の誕生」と題し、スウェーデンのスロイド(工作科または工芸科)およびテクニーク(技術科)教育の現状を紹介する。そして、それとの比較から日本の小・中学校教育および高校普通科において、「テクノロジーおよび労働の世界への手ほどき」を「普通教育においてすべての子どものものにする」課題が軽視されてきた、と指摘する。小学校の図画・工作や中学校の技術・家庭科の時間数の増大、施設・設備の充実を訴え、国民の技術的教養の発達を土台にしてこそ「技術力の低下」は真に克服されるだろう、と結んでいる。工芸・技術ではないが、私が中学生だった 1950 年代初めには、「職業指導」という科目があり、いろいろな種類の職業について、概念的ながら学んだものであった。いまは、そういう科目もなくなっているのではないだろうか。

 ちなみに、『日本の科学者』は日本科学者会議が刊行している総合学術誌である。日本科学者会議とは、科学者がその社会的責任を自覚し、科学の各分野を総合的に発展させ、その成果を平和的に利用するよう社会に働きかける運動体であり、1965 年に創立された。1971 年以来、世界科学者連盟(1946 年に創立、初代会長フレデリック・ジョリオ=キューリー)に加盟し、世界の科学者運動と交流を深め、核兵器廃絶を始めとする諸活動で積極的な役割を果たしている [1]。

  1. 日本科学者会議ホームページ

コメント(最初の掲載サイトから若干編集して転載)

Y 12/26/2004 21:51
 まあほんとに、自分のブログでの「人付き合い」の大変さ(ご想像がつくかもしれませんね)で疲れてしまって、私、病人で障害者なんですから、一番読みやすくて多彩な Ted さんのブログも、これだけ遅れて読みに来たものの、半日、開けたまま読む気力が出なかった状態です。でも、毎回ですが、興味あるタイトルで、私と異分野でも大変勉強になるブログですので、やはり読ませていただいてよかったです。
 まず、高度な技術内容の継承を、昔多かった個人的職人業界の継承の話には到底つなげていけない時代であることは確かで、ここでもちろん企業での技術継承が出てきますね。私は製作現場(工場)でもあえて働いてきたので、異世代で人員が構成されて、教えあうことがよいということなど、すべて Ted さんが書かれ、紹介されている通りと賛同します。
 どうもリストラ・人減らしはそもそもおかしいのではないか、と考えるのですが、もちろん年功序列、安定企業人生が今の時代の流れとしてよいとも思っていませんし、ただ何か根本発想の転換がはかれないかと思ったりします。
 会社の(労務)政策も、そもそも正解なんてないのですから、方針を模索し、よりよいものが見つかればそちらに大きくでも変更するだけの、人事部・総務部などの将来への志、柔軟性が求められるように思いますね。以上は、企業をあまり知らない私の、素人感想です。
 次に、小中学校の技術家庭などの科目時間の増加・充実で、技術的素養の発達を図る、というのは多少疑問に感じます。大学等で勉強して、企業に入社してようやく一から身につけるほどのレベルの技術を、小中学校での技術教育と直結できるとは考えにくいのです。「技術」概念も幅が広く奥が深いという認識が必要では?
 そして何より、家庭教師経験からですが、今の中学生など、職場教育といって、新聞社など企業に見学・実習に行かなければいけなくて、さらにその成果(感想)を発表しなければならない、という「忙しい学校生活」を送っているのです。いきなりそれはないだろう、って私は幾分思ったのですね。子どもは子どもの世界を大事にしていてそれで十分ではないでしょうか。真に自由な安心できる子ども世界を経験できなければ、極端な場合、私のように 16 歳で家を出て全自活を志して病気になる、といったような事例が出る危険性さえあるのかもしれません。まさかそこまでいかなくてもね…。
 上記、Ted さんのご意見はいかがでしょうか? すみません、長くなりました。

Ted 12/26/2004 22:52:14
 紹介した特集では扱われていませんでしたが、「個人的職人業界の継承」も機会があれば考えてみたい重要な問題だと思います。
 「年功序列、安定企業人生」は最近かなり変更され、むしろ競争人生の弊害もそろそろ出始めているのではないでしょうか。私も正確な実態は知りませんが。
 紹介した論文で「小中学校で技術的素養の発達を図る」必要性をいっているのは、「入社してから身につける技術」に直結するものということではなく、その技術を学び易くする基礎を築くということで、小学校の算数や国語が、上の学校で、さらには社会へ出てからの各種学習の基礎として必要なのと同じ意味で、私は必要と思います。
 今の中学生に職場教育がありますか。私も中学生時代に新聞社の見学がありました。私は中学校のクラブ活動で新聞部に入っていたので、特別かも知れませんが、興味深く見学しました。「ゆとり教育」の取り入れで、学校生活の忙しさは減ってはいませんか。私はかなりの割合の子どもたちが、塾通いで忙しくなっていることの方を懸念します。
 この記事に、もっとコメントがあってもよさそうに思いましたが、Y さんの掲示板でお目にかかったような視野の広い論客がエコーサイトにはいないのでしょうか。四方館さんはこの記事を読んで下さったと別のところに書いて下さいましたが。

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