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2005年2月21日月曜日

アメリカの実像

 2 月 20 日付け朝日新聞の書評欄にマイケル・T・クレア著「血と油」(柴田裕之訳、日本放送出版協会、2004) [1] が取り上げられている。評者・中西寛(京大、国際政治学)は、「ブッシュ政権が石油を狙ってイラク戦争を行ったというのは単純すぎる議論だが」と、その評を書き出している。しかし、この断わり書きにはほとんど意味がない。すぐに「アメリカの中東政策にとって石油が大きな意味をもっていることは間違いない」と続き、さらに「アメリカの安全保障政策の専門家がアメリカの対外政策と石油の構造的なつながりを解明した著作である」と、本書を要約している。

 クレアによれば、世界の人口の 5% に満たないアメリカは世界の総石油供給量の 25% を消費しており、アメリカのエネルギー政策は、石油の対外依存の増大、不安定で友好的でない地域への依存の移行、反アメリカ市民による暴力という危険の増大、予想される石油資源の減少に向けて競争の増大、という四つの傾向に支配されている。これらの傾向が中東地域その他の産油国への支配力を高めようとするアメリカ外交の基本姿勢を作り出しているのである。クレアが提案するように、アメリカの政権が一日も早くエネルギーの石油依存を低下させる努力をしなければ、アメリカ、そしてこれに追随する日本、の未来は暗い。

 なお、アメリカ陸軍部隊が南ベトナムのソンミ村で行った虐殺のスクープでピュリツァーを受賞したセイモア・ハーシュによる「アメリカの秘密戦争」(伏見威蕃訳、日本経済新聞社、2004) [2] も、イラク戦争の根源とアメリカの実像に迫る著書として注目しなければならない。ハーシュは 2004 年 4 月、イラクのアブグレイブ刑務所での拷問、虐待が大統領を含む上層部の暗黙の了解以上のものをもって行われたことを暴露したが、この本は、これがアメリカの世界戦略の本質にかかわるものであることを明らかにしている。私たちは、「中東に自由と民主主義を広める」というブッシュ政権と、そこに巣食うネオコン(新保守主義)の真意を直視しなけらばならない。

  1. 原書: Michael T. Klare, Blood and Oil: The Dangers and Consequences of America's Growing Dependency on Imported Petroleum (Metropolitan Books, 2004)。
  2. 原書: Seymour M. Hersh, Chain of Command: The Road from 9/11 to Abu Ghraib (HarperCollins, 2004)。


コメント(最初の掲載サイトから若干編集して転載)

テディ 02/21/2005 12:13
 それにしても米国の行動には何か一貫性に欠けるところがあり、それはあくまでも米国は独裁政治からの解放者であり、自由と民主主義の伝道師であるという表向きの看板(偽りだらけですが)を絶対に捨てることができないという足かせがあることだけではないような気がします。
 田中宇氏は米軍のファルージャ侵攻の失敗を例に取り、
 「こうした例を見ると、米中枢には、自国の戦争を重過失によって失敗させる『未必の故意』の意思を持った勢力がいるのではないかと、いつもながら思われてくる。ベトナム戦争のときも、勝てたはずの戦争を泥沼化するに至った過度な失策がいくつもあった…」
と述べています。
 いずれにしても、米国の政権内部は決して一枚岩ではなく、水面下での権力闘争は熾烈を極めているのではないでしょうか。

テディ 02/21/2005 12:24
 こんなコメントを書き込んでいる間に「ブッシュ・テープ」なるものの暴露があったようですね。[編集者の注:ABC ニュースの URL が記載されていたが、後年リンク切れとなったので削除した。]

Ted 02/21/2005 20:47
 政界はどこも複雑で、私など政治評論を書くに適しません。マリファナ使用の件ですか。権力失墜とまでは行きそうもないですね。

テディ 02/22/2005 21:39
 そうですね。私も長時間かけて N. Y. Times の元記事を「眺めて」みたのですが、とりたててスキャンダル性のあるネタはないようで…。

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