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2009年1月25日日曜日

力とは:斥力、引力、そして… (2)

 南部さんはポリツァーさんに対して、「ところが、これをひっくり返すと、前の部分が消えて、新しいのが現れる。この場合もやはり、ふたつの間の相互作用と呼ぶんですね」と言葉を続けている。「これ」というのは、南部さんがホワイトボードに描いたであろうA図のことである。そして、「これをひっくり返す」というのは、A図を90度回転することであろう。右回りに回転すると、B図のようになる。

 ただし、右下と左上の直線についている矢印は、下向きになり、粒子が過去へ向って運動しているかのようである。この場合、ファインマンダイアグラムでは、反粒子が矢印とは逆向きに運動していることを表すと解釈する。電子の場合、その反粒子とは陽電子(e+)のことである。したがって、下側のバーテックスに集まっているふたつの直線は、電子と陽電子が近づいてきていることを意味する。

 そして、バーテックスから上に延びている波線は、電子と陽電子が衝突したとき、それらがなくなって、代わりにひとつの光子が発生することを意味している。南部さんの言葉の「前の部分が消えて」に相当する。このときに発生した光子は、消えてなくなった一対の電子と陽電子の静止質量の和に相当するエネルギーをもっていて、A図の仮想光子とは異なり、実在の光子として観測にかかるものである。ここまでの現象は、電子対消滅と名づけられている。

 B図には示されていないが、電子と陽電子は衝突して消滅する前に仮想光子を交換し続け、それらの光子が、いまの場合近づいてきている粒子同士の電荷が互いに異符号であるとの情報を伝え、粒子間に引力を発生させているのである。

 Bのファインマンダイアグラムをさらに上へたどると、発生した実在の光子は、ある程度飛行したのち、ふたつ目のバーテックスが示す時空点で消滅し、代わりに一対の電子と陽電子が発生することが表されている。この現象は電子対生成と呼ばれる。南部さんの言葉の「新しいのが現れる」に相当する。光子の発生の前にあった電子と陽電子はなくなってしまい、新しい電子と陽電子が誕生したのであるから、かかわっている粒子は合わせてよっつあることになりそうだが、南部さんは「この場合もやはり、ふたつの間の相互作用と呼ぶ」と説明している。原理的には、Aのファインマンダイアグラムをひっくりかえしたに過ぎない現象だからである。

 対談のこれまでの「力」という言葉の代わりに、南部さんはここで「相互作用」という表現を使っている。素粒子間の現象としては、両者は同じ意味に使われるのだが、「ふたつの間の力と呼ぶんですね」といって貰えば、もっと面白味が出たと思われる。

(つづく)

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