2024年5月29日水曜日

抱いた大志に悔いなし (No Regrets for Unfulfilled Ambitions)

[The main text of this post is in Japanese only.]
写真は筆者(向かって左から 3 人目)が 1998 年にウクライナのハルキウ大学へ招かれた際のもの。当時私を歓迎してくれた人たちは、ロシアの軍事侵攻を受け、どうしているだろうかと心配している。
The photo was taken when the author (third from the left) was invited to Kharkiv University in Ukraine in 1998. I worry about how the people who welcomed me at that time are doing under Russia's military invasion.

 以下は私の出身高校(石川県立金沢菫台高校、現・石川県立金沢商業高校)の同窓会誌『金商菫台プレス』No. 64, pp. 26–27 (2024) に掲載された私の寄稿である。
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 私が高校を卒業したのは、ちょうど 70 年前で、この節目の年に執筆依頼を頂いたことは光栄である。過去の寄稿を一部省略して振り返ると、創立 80 周年記念 20 号(1980 年)に「南東部カナダの夏」の題で国際学会出張の経験を、47 号(2007 年)に「集うこと十回」として新聞部同窓会のことを、それぞれ投稿し、関西支部発行の小冊子から「趣味の不透明水彩画」の文が 63 号(2023 年)に転載されている。以上から本誌読者の方々が察知される私の人物像は、在校時代に新聞部に属し、就職後は理系か文系か不明だが国際学会に参加するような研究に従事し、水彩画を趣味とする、ということぐらいだろう。

 そこで、在校時代の私の情報を追加してみよう。『金商菫台百年史』(2000 年)中の、菫台時代の生徒会誌『新樹』についての記事に、「二号、三号のころまでは、[...中略...]文学的要素が濃く、四号あたりから、[...中略...]多幡達夫の『不思議の国アリスにおける with の使用法』など、生徒の研究論文が見られます」とある。『新樹』四号は私が 2 年生の時の発行で、拙文の実際の題名に「における」以下の部分はなく、エッセイ的な内容だった。ただ、秋山校長の英語授業で習った同題名のルイス・キャロル作品の冒頭部分を、英文から受ける感じを含めて鑑賞した形だったので、研究論文という印象を与えたのだろう。『新樹』五号には、3 年の時のホームルーム担任で英語も習った坂井先生の勧めで「ヘンリィ・ライクロフトの手記」として、同題名の英文学作品の部分和訳と感想を書いた。同時に、前年夏休みの国語の宿題として提出した創作「夏空に輝く星」を載せるようにと、宿題を出された桑山先生に勧められ、一年余り前の稚拙なものを今更と思いながらも、「よい記念になるよ」とも言われて承諾した。同期生達の関心は、ヒロインのモデルが誰かに注がれたようだった。

 追加の情報からは全くの文系人間と思われそうだが、実は私は高峰賞(「転載時の注」参照)を受賞し、京大理学部へ進学した。進学先の決め手となったのは、日本最初のノーベル賞受賞者・湯川秀樹博士の下で素粒子論物理学を学び、博士と同様な成果を挙げたいという大志を抱いたことだ。高峰賞を貰った後、親友たちから「次はノーベル賞!」と言われもした。しかし、大学 4 年で専攻を決める際、諸事情を勘案し、素粒子論でなく、実験原子核物理学を選んだ。修士課程修了後、専攻分野の恩師・木村毅一博士が作った大阪府立放射線中央研究所に就職し、電子の後方散乱の実験で理学博士を取得、1990 年、同研究所が大阪府立大(現・大阪公立大)に統合された折に、私の職名は総括研究員から教授に変わった。1999 年に名誉教授の称号を得て定年退職し、以後は自分のウェブサイトに研究所名をつけて、ささやかな活動を続けている。

 抱いた大志はそのままの形では実現しなかったが、50 年前後を経てなおよく引用されている論文をいくつか発表したという、まずまずの研究生活が出来、悔いることは全くない。また、湯川博士を尊敬し続けたお陰で、2007 年の同博士生誕百年に向けて大阪科学館で活動した「湯川秀樹を研究する市民の会」のアドバイザーの一人として、物理好きの一般市民の方々と共に博士のノーベル賞論文を学ぶ機会を持ち、2010 年に姫路在住京大同窓生の会で「湯川の仕事に対する中国古典の影響」という講演をしたなどの思い出も出来た。金商高在校生や若い同窓生の方々にも、大いに大志を抱いて貰いたい。それがよい人生につながるだろうから。

転載時の注:高峰賞は、金沢が生んだ偉大な科学者・国際人である高峰譲吉博士の功績を顕彰し、併せて科学教育の振興を図ることを目的として 1945 年春に設立された「高峰譲吉博士顕彰会」が行っている事業の一つ。第 1 回高峰賞授与は 1951 年度に行われ、当時は石川県内の中学・高校生から、それぞれ理科・化学の優秀な生徒各 10 名(正賞・副賞各 5 名)が選ばれていた。1971 年度の第 21 回から、個人賞に加え学校賞が制定され、代わりに高校生は対象から外された。(金沢市のウェブサイトを参考にした。)

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2024年1月1日月曜日

2024年初めのごあいさつ (Greetings for the New Year of 2024)

[The main text of this post is in Japanese only.]
妻の年賀状の挿絵として、彼女が登った思い出の山の一つである赤石岳
(標高3,120m)を私が描いたもの。
『最新版 日本百名山』No. 15(朝日新聞社、2008)の表紙写真を参考にした。
A picture I made for my wife's New Year card, showing Mt. Akaishidake,
one of the mountains she climbed.

新年おめでとうございます

ゆっくりと浮力をつけてゆく凧に
の字が見ゆ字は生きて見ゆ
               ——岡井 隆

歳を重ねても上昇する気持ちを失いたくないものと思います
そして世界中の空が凧揚げにふさわしい平和な状態であることを願うものです

皆様のご健康とご幸福をお祈りします

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2023年6月11日日曜日

水彩画『白山』 (My Watercolor "Mt. Haku")

不透明水彩画「白山」
My gouache painting, "Mt. Haku"

 上掲のイメージは、堺市内で毎年開催されている美術展「美交会展」の本年度展(2003年5月30日〜6月4日)に出品した不透明水彩画である。白山は、石川県出身者には親しみのある山で、私の出身高校である旧・石川県立金沢菫台高校(現・石川県立金沢商業高校)の校歌2番1行に「朝日に映ゆる白山や」と詠まれてもいる。しかし、私自身は近くまで行ったこともない。描くに当たっては、『最新版週刊日本百名山No.44』(朝日新聞出版、2008年)の表紙写真(吉澤康暢氏による)を参考にした。その説明によれば、大汝峰から南東に剣ヶ峰(左手前、直下に翠ヶ池を擁する)と主峰・御前峰(右奥)を望む風景である。方角や陰影から、まさに「朝日に映ゆる白山」と分かる。写真をコンピューター加工したものを真似る手法を使い、元の写真より大幅に明るく描いた。

This is a gouache painting, "Mt. Haku," which I presented at this year's art exhibition of "Bikokaiten," which we have annually in Sakai City. Mt. Haku is a mountain that people from Ishikawa Prefecture are familiar with. The school song of the former Shikindai Senior High School (presently Ishikawa Prefectural Kanazawa Commercial High School), which I graduated from, includes the phrase "Mt. Haku shining in the morning sun." But I've never been anywhere near it myself. When drawing, I referred to the cover photo (by Yasunobu Yoshizawa) of "100 Famous Mountains in Japan Weekly, Latest Edition, No. 44" (Asahi Shimbun Publishing, 2008). According to the explanation attached to the photo, it is a view from Ōnanjimine to the southeast, namely, Kengamine (front left, with Midorigaike Pond directly below) and the highest peak, Gozengamine (back right). From the direction of the view and shadows, we find that the scenery is just "Mt. Haku shining in the morning sun." Using the technique of mimicking a computer-modified version of the photo, I made the painting significantly brighter than the original photo.

2023年1月13日金曜日

夢と記憶の妙 (Mystery of the Dream and the Memory)

[See the English version of this post.]E. U. コンドン、G. H. ショートレイ著「原子スペクトルの理論」、Amazon のウェブサイトから
"The Theory of Atomic Spectra" by E. U. Condon & George H. Shortley, taken from the Web site of Amazon
(I made links to the book title as an Amazon Associate and earn from qualifying purchases.)

 覚醒時には何十年も思い出したことのなかった一冊の本に関する記憶が、突然、夢の中に出て来た。Condon–Shortley(コンドン と ショートレイ)という2人の共著者の名前としてである。目覚めてから考えても、その本の題名は覚えていなかったが、多分、物性物理学関係の本だろうと思った。著者名でインターネット検索してみると、"The Theory of Atomic Spectra"(原子スペクトルの理論)という1935年発行の名著だと分かった[注1]。物理学を二つの分野に大別すれば、物性物理学と素粒子・原子核物理学分野になり、原子スペクトルは確かに前者に属する。

 私の大学生時代は戦後比較的まもない混乱期で、物理学の各分野の名著が海賊版でいくつも出版されていた。そして、それらを出版業者から取り次ぐアルバイトをしていた 1 年先輩の学生が、私たちの講義を受ける教室へもよく宣伝に来ていた。この本の海賊版についても彼が、「今度 Condon–Shortley が出ます。 原子スペクトルの理論についての名著です」というように宣伝したのが、頭のどこかにこびりついていたのだろう。原子スペクトルに関する講義の中でも、教官が「これについては、Condon–Shortley の本に詳しく書いてあります」と話したかも知れない。また、同期生の誰かが「Condon–Shortley(の海賊版)を買おうかどうしようか迷っている」と言っていたのも聞いたかもしれない。

 私が大学で専攻したのは「原子核」で、「原子」スペクトルについては関心がなかったので、その本を読みたいと思ったことはなく、その本のことを思い出したことも卒業以来 65 年余り全くなかった。それにもかかわらず、著者名だけながら、夢の中で思い出すとは、まことに奇妙で不思議なことである。


 注
  1. 発行所のウェブサイトに次のように書いてある:最初に出版されたとき、"Nature" 誌の批評家は次のように述べている。「人類の既存の知識が巧みに統合してあり、何年にもわたって今後の研究の出発点となるとともに、研究者たちにインスピレーションを与え続けると思われる、強力かつ完全な、第一級の本であるという印象を受ける。」(英文から筆者が意訳。
    https://www.cambridge.org/jp/academic/subjects/physics/atomic-physics-molecular-physics-and-chemical-physics/theory-atomic-spectra)

2023年1月1日日曜日

2023年初めのごあいさつ (Greetings for the New Year of 2023)

[The main text of this post is in Japanese only.]
妻の年賀状の挿絵として、彼女が登った思い出の山の一つである白山[主峰・御前岬(右奥、標高2,702m)と、直下に翠ヶ池を擁する剣ヶ峰(左手前)]を私が描いたもの。『最新版 日本百名山』No. 44(朝日新聞社、2008)の表紙写真を
参考にした。
A picture I made for my wife's New Year card, showing Mt. Haku,
one of the mountains she climbed.

新年おめでとうございます

亀は歩みは眠る長閑かな ——尾崎紅葉

この句がどういう状況で詠まれたかを知りませんが 真の長閑さは世界中から戦争がなくなってこそ得られると思います そのための努力が亀の歩みのようであっても 大切にしたいものです

皆様のご健康とご幸福をお祈りします

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