湯川秀樹を研究する市民の会(湯川会)では、さる6月15日の例会から、湯川博士のノーベル賞講演 [1] を英語の原文で勉強し始めた。その題名 "Meson theory in its developments" について早速、「Development は抽象名詞だと思うが、複数形になるのだろうか」という意味の鋭い質問が出た。その場では、はっきりした結論が出なかったが、帰宅後、英英辞典 "Longman Dictionary of Contemporary English" で "development" を調べてみると、この単語は意味によっては可算名詞にも非可算名詞にもなるのである。意味は5通り挙げられていて、そのうち2通りが非可算名詞、3通りが可算名詞になっている。
1番目の意味は "the gradual growth of something, so that it becomes bigger or more advanced" とあり、「成長、発展」の意のようだが、このときは非可算名詞。3番目の意味として、"the act or result of making a product or design better and more advanced" とあり、このときは可算名詞。ここで『ランダムハウス英和大辞典』で、これに相当すると思われる訳を探すと、「(発達の)成果、結果」というのがあり、その用例として、"recent developments in the field of science" が挙げられている。
そこで、私は湯川会のグループメールで、湯川博士がこの3番目の意味で使ったとすれば、複数形でよいわけで、題名 "Meson theory in its developments" の和訳は、私が当日言った「発展中の中間子論」でなく、「成果に見る中間子論」、あるいは意訳して「中間子論の成果」とするのがよさそうだ、と書き送った。
すると、別の会員から、『湯川秀樹自選集2』[2] の中に、「発展途上における中間子論」として、ノーベル賞講演の和訳が収められていて、その本の「まえがき」に、湯川博士自身が「『発展途上における中間子論』は、一九四九年のノーベル賞受賞講演で、…」と書いているので、博士自身は "developments" を「発展」の意として用いたようだ、とのメールが届いた。
私はこれに対して、次の趣旨のメールを返した。
湯川博士が「発展途上における中間子論」の意味で "development" を複数形にしたのならば、はっきりいって間違いである。外国の学者の誰かが、「湯川は中間子論を acceptable な英語で書いて発表した」と書いているのを読んだことがある。「acceptable な英語」とは、上手な英語という意味ではなく、読める英語、通じる英語、といった意味である。私も中間子第1論文の英文を、TEX版をチェックするなどして熟読した結果、必ずしも上手ではないと思った。
「Acceptable な英語」と書いていたのが誰だったか思い出せなくて、湯川博士について触れてある私の所有洋書を片っ端から調べたが、見つからない。ふと思い立って、"Google Book Search" で Yukawa と "acceptable English" のキーワードを使って検索したところ、すぐに [3] と分かった。そこには次のように書いてある。
Yukawa had made an attractive unified theory of nuclear forces and published it, in acceptable English, in a widely available journal. . . .
(つづく)
- H. Yukawa, Meson theory in its developments, Nobel Lecture, December 12, 1949 (available at http://nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/1949/yukawa-lecture.pdf).
- 湯川秀樹, 湯川秀樹自選集2 (朝日新聞社, 東京, 1971).
- L. M. Brown, Nuclear forces, mesons, and isospin symmetry, in "Twentieth Century Physics Vol. 1," ed. by L. M. Brown, A. Pais and A. B. Pippard, Page 383 (Institute of Physics Publishing, Bristol, 1995).
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