2008年10月26日日曜日

理論物理学者の3つのモード (1)

 以下は、10月24日づけで「湯川秀樹を研究する市民の会」会員へ送ったグループメールのコピーである。

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 皆さん、今晩は。

 先日、ジュンク堂書店大阪本店で、「ノーベル賞受賞」との広告もなく棚にひっそりと並んでいた南部さんの小さな本を見つけて買いました。『素粒子物理学の100年』高等研選書 8(国際高等研究所、2000年)50ページ、税込み 500円。(http://www.copymart.co.jp/wcc/iiasap/sen_frame.html からオンライン版も購入できます。税込み 299円。)

 1999年11月に行われた国際高等研究所フェロー公開講演会の話をもとに、著者が加筆したもので、やさしい内容です。誤植が沢山ありますが、内容の理解に影響するほどではありません。後半26ページからの、素粒子論の指導原理の説明や、「物理学はいくつかの段階を経て発展する」(武谷の「3段階論」の紹介)と「理論家としての3つの研究方法」の節は興味深いものがあります。巻末の年表も私たちの研究に役立ちそうです。

 ここでは、湯川の名の出てくる「理論家としての3つの研究方法」の節を簡単に紹介します。著者は、自らの観察に基づいて、理論物理学者には人によって3つの異なった研究方法または態度が見られると述べ、それを3つのモードと呼んでいます。各モードの名前は、「アインシュタイン型」「湯川型」「ディラック型」です。これらについて合わせて、約3ページの説明がありますが、「湯川型」については、約1ページ半と、最も多くのスペースをさいています。

 「アインシュタイン型」は、まず自然の従う原理についての仮定を立て、それに基づいて理論を創る、いわば上から下へ(top down)の立場です。

 「湯川型」は、これとは逆で、「新しい現象の背後には、深い理由は別にして、何か新しい場や粒子がある」という作業仮定から出発する、下から上へ(bottom up)の立場です。

 「ディラック型」は「天下り型」ともいえるもので、「数学的に美しい理論は真である」とする立場です。

 南部さんは、「ヨーロッパの学者たちが既知の電子、陽子、中性子以外の粒子を仮定するよりも、新しい現象は新しい理論、恐らく量子力学に代わるもの、で説明すべきだという先入観をもっていたときに、湯川は完成された量子力学をそのまま受け入れ、その帰結をあくまで追求する立場を取った。すると、核力のような新しい力の場には新しい量子が付随していなければならないことになる」旨、述べています。

 「湯川型」の定義に照らせば、これは確かに bottom up の立場ですが、量子力学あるいは場の量子論を「自然の従う原理」とみなした(湯川自身がそれを新しく考え出して仮定したのではありませんが)と考えれば、top down の立場と見ることもできるように思われます。当時のヨーロッパの学者たちの方が、新しい現象という bottom から、それを支配する top の理論を構築しようとしたという意味で、bottom up の立場ともいえます。

 また、アインシュタインにも、「数学的に美しい理論は真である」とする考え方がいくらかあったように思われます。こう考えると、南部さんの3つのモードは、必ずしも、すっきり割り切れないような気がします。また、南部さん自身は、何型なのでしょうか。皆さんは、いかがお考えでしょうか。

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