「湯川秀樹を研究する市民の会」では、中間子を媒介として中性子と陽子が引き合う核力が生じるという湯川博士の中間子論の真髄を、分かりやすい例えで説明する方法を考えようとしている。
媒介となる粒子をボールとして、キャッチボールに例える方法は、湯川博士自身、自伝『旅人』の中でしばしば使っている。他方、キャッチボールでは、ボールの運動量により、受けた人が後方への力を受けるとして、これを斥力の説明に使い、引力にはブーメランの投げ合いを使う説明も、かなり以前からある。ブーメランは後方から回り込んで相手に到達し、投げた人の方への力を及ぼすというのである。最近では、文献 [1] にこの説明が紹介されていて、「実際にこの通りではありません」と断ってある。
たしかに、素粒子同士の基本的な相互作用の説明に、マクロな物体の形態や運動量が関係している例えを使うのはいささか具合が悪い。そこで、これを越える説明がないだろうか、というわけである。
最近、"Mr. Tompkins Gets Serious" [2] という本のあることをアマゾンUSAからの宣伝メールで知った。先日、上京したついでに本屋へ寄ったところ、この本があり、少し立ち読みした。湯川博士の中間子論にふれたところがあり、粒子同士が第三の粒子を媒介にして引き合うことを、二匹のイヌが一本の骨というエサを取りあって、両側からかみついて離れないという例えで説明してあった。湯川博士が「赤ちゃんが求心力となって夫婦を密着させる」と考えた話 [3] に似ている。しかし、この手法で斥力はどう説明できるだろうか。
文献
米沢富美子, 『人物で語る物理入門(下)』, p. 220 (岩波新書, 2006).
George Gamow, "Mr. Tompkins Gets Serious: The Essential George Gamow, The Masterpiece Science Edition" (Pi Press, 2005).
朝日新聞夕刊「ニッポン人脈記」欄 (2006年5月25日).
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