ちょうど10日遅れの話題だが、3月14日はその数字から「πの日」となっている。また、アインシュタインの誕生日でもある。このことから、ふと、その日は「π中間子(パイオン)の日」でもあるとして、この粒子の存在を理論的に予測した湯川博士と、宇宙線中にそれを見つけた実験グループの指導者セシル・パウエル(湯川博士の翌年にノーベル賞受賞)も祝われるべきだ、などと思った。
ところで、パイオンは発見当初 "heavy meson" と呼ばれていた、とジョージ・ガモフの本 [1] にある。「重い」と「中間 (meso)」が一緒になっていることから、ガモフは「"heavy middle-weight boxer" のように」と()内につけ加えているが、少なくともいまは、そういう名称のボクシングの階級はないようだ。重い方から、heavy weight、cruise weight、light heavy weight、super middle weight などとなっている。
π-meson という名は、パウエルがヨーロッパ式の命名法に従って、μ-meson の名と合わせてつけた、とマイケル・リョーダンの本 [2] にある。しかし、なぜπとμにしたかは書いてない。私は、πは Powell の頭文字から、μはアンダーソンらの見つけた粒子が最初に呼ばれた mesotron の頭文字(meson の m とダブるが)から、あるいはπより先に来るギリシャ文字アルファベット中の使いやすいもの(例えばνはニュートリノという粒子とまぎらわしくて使いにくい)から、とったかと想像する。
パイオンの名の由来についてウエブサイトを探したところ、粒子や高エネルギー物理学用語の由来が集めてあるサイト [3] が見つかった。しかし、そこには [2] の記述を引用してあるだけだった。πとμが選ばれた本当の事情をご存知の方があれば教えていただきたい。
追記:アブラハム・パイスの本 [4] によれば、パウエルのグループの論文 [5] に次のような文で、π、μ両中間子が命名されているという。
There is . . . good evidence for the production of secondary mesons constant in mass and kinetic energy . . . . It is convenient to refer to this process . . . as the μ-decay. We represent the primary meson by the symbol π, and the secondary by μ.
これでもなお、πとμを選んだ理由が分からない。
文献
- G. Gamow, "The Great Physicists from Galileo to Einstein" p. 320 (Dover, New York, 1988; originally published by Harper & Brothers, 1961).
- M. Riordan, "The Hunting of the Quark" p. 52 (Simon & Schuster, New York, 1987).
- Lynne Zielinski, Physics Folklore (http://ed.fnal.gov/samplers/hsphys/folklore.html).
- A. Pais, "Inward Bound" p. 454 (Clarendon Press, New York, 1986).
- C. M. G. Lattes, G. P. S. Occhialini and C. F. Powell, Nature Vol. 160, 453 (1947).
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