2007年3月24日土曜日

パイオンの名の由来

 ちょうど10日遅れの話題だが、3月14日はその数字から「πの日」となっている。また、アインシュタインの誕生日でもある。このことから、ふと、その日は「π中間子(パイオン)の日」でもあるとして、この粒子の存在を理論的に予測した湯川博士と、宇宙線中にそれを見つけた実験グループの指導者セシル・パウエル(湯川博士の翌年にノーベル賞受賞)も祝われるべきだ、などと思った。

 ところで、パイオンは発見当初 "heavy meson" と呼ばれていた、とジョージ・ガモフの本 [1] にある。「重い」と「中間 (meso)」が一緒になっていることから、ガモフは「"heavy middle-weight boxer" のように」と()内につけ加えているが、少なくともいまは、そういう名称のボクシングの階級はないようだ。重い方から、heavy weight、cruise weight、light heavy weight、super middle weight などとなっている。

 π-meson という名は、パウエルがヨーロッパ式の命名法に従って、μ-meson の名と合わせてつけた、とマイケル・リョーダンの本 [2] にある。しかし、なぜπとμにしたかは書いてない。私は、πは Powell の頭文字から、μはアンダーソンらの見つけた粒子が最初に呼ばれた mesotron の頭文字(meson の m とダブるが)から、あるいはπより先に来るギリシャ文字アルファベット中の使いやすいもの(例えばνはニュートリノという粒子とまぎらわしくて使いにくい)から、とったかと想像する。

 パイオンの名の由来についてウエブサイトを探したところ、粒子や高エネルギー物理学用語の由来が集めてあるサイト [3] が見つかった。しかし、そこには [2] の記述を引用してあるだけだった。πとμが選ばれた本当の事情をご存知の方があれば教えていただきたい。

 追記:アブラハム・パイスの本 [4] によれば、パウエルのグループの論文 [5] に次のような文で、π、μ両中間子が命名されているという。

 There is . . . good evidence for the production of secondary mesons constant in mass and kinetic energy . . . . It is convenient to refer to this process . . . as the μ-decay. We represent the primary meson by the symbol π, and the secondary by μ.

これでもなお、πとμを選んだ理由が分からない。

文献

  1. G. Gamow, "The Great Physicists from Galileo to Einstein" p. 320 (Dover, New York, 1988; originally published by Harper & Brothers, 1961).
  2. M. Riordan, "The Hunting of the Quark" p. 52 (Simon & Schuster, New York, 1987).
  3. Lynne Zielinski, Physics Folklore (http://ed.fnal.gov/samplers/hsphys/folklore.html).
  4. A. Pais, "Inward Bound" p. 454 (Clarendon Press, New York, 1986).
  5. C. M. G. Lattes, G. P. S. Occhialini and C. F. Powell, Nature Vol. 160, 453 (1947).

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