2007年1月23日火曜日

湯川博士生誕100年記念日

 以下は、私がけさ「湯川秀樹を研究する市民の会」メンバー宛に送ったグループメールである(字句を少し修正した)。




湯川の会の皆さん

 きょうは、いよいよ湯川博士生誕100年記念日。朝日新聞第1面が、博士の中間子発想の少し前の日々の日記に、「γ' rayについて考へる」と書かれていたという記事を載せています*。博士が、電磁場の光子の類推として核力の場の中間子を考えていたことが、「γ' ray」の語に現れていますね。

 * 中間子着想4日間、湯川博士の日記に ノーベル賞の原点


 Sさんからお知らせいただいた昨夕のNHKテレビ「かんさいニュース1番」の終りの部分での、私たちの会の活動についてのニュースを、私も見ました。「10代から70代の市民が…」といっていましたね。

 さて、このやや長いメールでは、原子核の束縛エネルギーと湯川論文のλの値について、それぞれ、少しばかりの説明と考察をします。

 まず、束縛エネルギーですが、一昨日の定例会でHさんが発表のリハーサルをされたとき、ボナーの実験に関するところで、核子1個当たりの束縛エネルギーの原子核の質量数Aに対する依存性の話が出ました。その関係を表わしたグラフを、例えば次のウエブサイトで見ることが出来ます。

   原子核の質量,結合エネルギー


 核子1個当たりの束縛エネルギーは、質量数Aの非常に小さいところでは、Aの増大とともに急激に増加し、鉄の原子核(質量数約56)付近で最大になり、あとは緩やかに減少します。Aの非常に小さい原子核はくっついてAの大きいものになった方がより安定、Aの非常に大きい原子核はバラバラになってAの小さいものになった方がより安定、ということです(これらのより安定になる変化の際に、結合エネルギーの差が外部へ放出されます)。前者の場合は核融合反応、後者の場合は核分裂反応の起こる理由となります。

 次にλの値ですが、λは核力の有効距離の逆数になりますので、その値は原子核の大きさ、特に陽子と中性子各1個からなる重陽子の半径から推定できます。湯川論文の第2章の終りでは、λを1012 cm−1 と 1013 cm−1 の間と仮定し、第3章の mU の推定に当たっては、5×1012 cm−1 という値を使っています。この値は、粗っぽく先の二つの値の中間を取ったもののようです。しかし、これは核力の有効距離でいえば 2 fm [1 fm は 10−13 cm] であり、次に記すように、現在知られている重陽子の半径とかなりよく一致するようです。当時、1桁に及ぶ不確かさの幅があったのだとすれば、うまい中間値の取り方をしたものです。

 次のウエブサイトに、原子核の大きさの測定方法の説明に続いて、原子核半径の近似的な一般式が書かれています。

   原子核の大きさ

その式は

   R=1.2A1/3 fm

というものです。重陽子の場合(質量数 A=2)にこの近似式を当てはめてみると、R=1.5 fm となり、その逆数のλは 6.7×1012 cm−1 となります。

 ちなみに、原子核半径の最初の測定結果は、ラザフォードが原子構造を明らかにしたときの、α粒子の金箔による散乱実験から求めたものです。

 [余談]1月11日付け高エネルギー研ニュースに「湯川博士生誕100周年~ 原子核をつなぎとめる中間子 ~」という記事があることを、たまたま見つけました。陽子と中性子が中間子をキャッチボールする動画が挿入されていますが、陽子と中性子が上方へ飛行しているのは奇妙です。時間経過のつもりでしょうか。動画では空間的に時間を示す必要はないと思います。

 T. T.

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