2013年10月13日日曜日

小説中のヒロインたちの話し言葉 (Heroines' Spoken Language in Novels)

[Te main text of this post is in Japanese only.]


シロタエヒマワリ(白妙向日葵)。堺市・鈴の宮公園で、2013 年 10 月 5 日撮影。
Silverleaf sunflower. The photo was taken in Suzunomiya Park, Sakai, on October 5, 2013.

小説中のヒロインたちの話し言葉

 私は高校 2 年生と 3 年生の夏休みの、何でもよいから書いて来いという国語の宿題に、どちらも小説を書いて提出した。2 年生のときの作品「夏空に輝く星」は、原稿用紙 50 枚ほどの、やや長いものである(こちらでダウンロード出来る)。2 年生のときの作品「逍遥試し」は、2006 年に一度ブログサイトに掲載したが、そのサイトがプロバイダーの事故で消滅したので、先日来、きょうまで 5 回に分けて、ブログサイト "Ted's Archives" に改めて連載した[こちらでご覧になれる。第 2 回以後へは、ページ末近くの「次の投稿」をクリックして、順次移れる]。

 どちらの作品についても、ウェブサイトに掲載するにあたり、ヒロインに何と古めかしい言葉遣いをさせたものかと、われながら驚いた。「夏空に輝く星」の方は、「ウェブ版への序文」に、「いま読み返してみると、私が菊池宏子の話しぶりを、漱石の小説に出てくる明治時代の成人女性のもののように書いているのが滑稽である。しかし、この点は、私が当時そのような話し方をする女生徒を理想的と思っていたのであろう記念として、変更しないでおいた」と書いて、そのまま掲載した。他方、「逍遥試し」については、2006 年に掲載したときの注に、「[ヒロインの]ケートの話し方が『てよ・だわ式』になっていた部分は、1950 年代にしても古風過ぎると思われたので、書き換えた」としている。

 これらのことにきわめて深い関係のある書評を、たまたま、けさの『朝日新聞』で読んだ。それは、中村桃子著『翻訳がつくる日本語:ヒロインは「女ことば」』についての三浦しをんの書評である。評者は、この本の特徴を、「日本語への翻訳の際、なぜ、『女性』『気さくさ』『黒人』といった性別、性質、人種を強調するような表現が取られてきたのか、その変遷をたどり、分析研究した」もの、と述べている。続いて、「日本語および日本語を使っている人々に、翻訳が与えた影響」という観点が興味深いとして、「女ことば」を使うと、「話者の性別」を簡単に明確化できる反面、「リアル」な表現とはいえないことや、実際にはあまり使われていない「女ことば」を、評者自身もなぜ無意識に書いてしまうかといえば、翻訳物からの影響もあって、「女性は女ことばを使うはず」という「錯覚・幻想」が染みついているからだろうことを述べている。

 そういえば、私は上記の小説を書く以前に翻訳物をより多く読んでいた。その影響があったのだろうか。中学 3 年生のときに初めて岩波文庫で読んだ翻訳物は、マーク・トウェーンの『トム・ソーヤーの冒険』(石田英二訳)であり、高校生になってからは、トルストイの『復活』(中村白葉訳)やスタンダールの『赤と黒』(桑原武夫・生島遼一訳)を読んでいた。それらの本のヒロインたちはどういう言葉を話していただろうかと思い、いまなお書棚にあるそれらの文庫本を引っ張り出してみる。

 『トム・ソーヤーの冒険』に登場する少女ベッキイは、
「ああ、どうして眠ったりなんか出来たんでしょう! もう、もう、二度と目が覚めなけりゃよかったのに! いいえ、いいえ、嘘なのよ、トムさん! そんな顔しないでちょうだい! もう二度といいませんわ。」(第32章)
という調子である。『復活』のカチューシャは、
「まあ、何をおっしゃいますの? いけませんわ! 駄目ですわ。」(第16章)
そして、『赤と黒』のレナール夫人は、
「そうよ、もうこうなると[命が]惜しくてしょうがないの! でもあなたを知ったことは、後悔してやしませんわ」(第16章)(引用文は、いずれも、歴史的仮名遣いを現代仮名遣いに直した。)

 どうやら、わがヒロインたちの「てよ・だわ式」言葉の根源は翻訳物にあったようである。そうとなれば、古めかしい女性の話し言葉を使わせたことを遠慮する必要もない。「逍遥試し」の「てよ・だわ版」をも掲載しようか(既掲載版にも、一ヵ所だけ「じゃあ、仕方がないワ」を残してあったが)。

 ところで、外国語では話し言葉に性差がほとんどなさそうに思えるのだが、どうして翻訳物には性差がつけられて来たのだろうかという疑問が湧く。中村桃子さんの本を読まなければならないだろうか。

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