2007年2月10日土曜日

湯川著『旅人』の外国語版

 以下は昨2月9日、私が「湯川秀樹を研究する市民の会」のメンバーへ送ったグループメールから(若干修正)。

*     *     *

皆さん

 私がかつて『旅人』の英・独語版 [1, 2] に多くの誤訳を見つけて訳者たちに知らせたという話を、定例会で時間があれば紹介したいと思っていましたが、定例会はいつも時間が足りないくらいで、その機会がありませんでした。私が訳者たちに送った手紙(英文、独訳者へも!)と正誤表のごく一部(誤りであることの説明を要するものだけ)が私のウエブサイト [3] にありますので、興味のある方はご覧下さい。

 英訳は日本からの留学生 R. Yoshida 氏が L. Brown 氏(もと素粒子論、その後物理学史、特に湯川・朝永あたりの研究者)個人のために訳してあったものに、小沼通二氏の勧めで Brown 氏が手を入れて出版したということですが、日本の地名や人名の誤読(ローマ字書きの間違い)がかなりありました。

 私が Brown 氏に手紙を送った時に、ちょうど彼のもとへ行っていた小沼氏を通じて、氏の帰国後に Brown 氏のお礼を伝える電話がありました(その件については和文でウエブページ [4] に、いくつかの誤読例とともに書いてあります)。しかし、その後も、私の指摘を参考にした英訳の改訂版が出ていないのは残念です。Brown 氏が物理学史の研究者であるにしては、物理学史用語の間違いと思われるものもあったのが不思議です。Yoshida 氏の下訳に十分注意深くは手を入れなかったということでしょうか。

 独語版の訳者からは何の音沙汰もなく、初版から13年後の1998年にペーパーバック版が出ていますが、アマゾンのデータで見たところ、こちらも改定されている様子はありません。記憶している滑稽な誤訳は、湯川博士が小学生の頃親友と肩を組んで雨天体操場(いまの言葉でいえば体育館)を駆け回ったというところの「雨天体操場を」が「雨の日に運動場を」となっていたことや、日露海戦の殊勲者とされる東郷元帥が陸軍の高官だったようになっていたことです。

 なお、私は京都国際会議場で開かれた中間子論50年国際シンポジウム(1985)の場で Brown 氏に会い、少しばかり話をしました。彼は『旅人』の仏訳が英訳から無断で再訳したものだといって、不興げな面持ちでした。

 T.T.

 後日の追記:英語版、独語版双方の正誤表全体をPDFとしてダウンロード出来るようにした(http://www.geocities.jp/tttabata/yfiles.html)。

  1. Hideki Yukawa "Tabibito", L. Brown and R. Yoshida, transl. (World Scientific, 1982).
  2. Hideki Yukawa: Tabibito - Ein Wanderer, E. Müller-Hartmann, ed; C. M. Fischer, transl. (Wissenschaftliche Verlagsgesellschaft, 1985).
  3. The English Edition of Yukawa's "Tabibito", 続いて The German Edition of Yukawa's "Tabibito" が掲載されている. "Surely I'm Joking!: A Physicist's Personal Essays" 所収 (IDEA Web site).
  4. 再び湯川さんを媒介に, 「ファインマンさんと私の無関係な関係」所収 (IDEA Web site).

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