昨年4月に正式発足して勉強を続けてきた「湯川秀樹を研究する市民の会」の成果を発表する3月4日のシンポジウムまで、あと1カ月を切った。以前 Scientific American 誌に掲載された Laurie M. Brown、南部陽一郎両氏による「戦時中の日本の物理学」という記事を未読のまま、どこかに残してあった。同シンポジウムでの発表に参考になるようなことが書いてないか、読んでみたいと、一昨晩それを探した。
ところが、どこを探しても、その記事は出て来ない。幸いオンラインで pdf の形で購入した Scientific American 誌の特集号の中に、その記事 [1] が再録されていて、読むことが出来、次のような記述を見つけた。
"Yukawa was doing war work one day a week; he never said what this entailed. (He did say that he would read The Tale of Genji while commuting to the military lab.)"
[湯川は一週間に一度戦争の仕事をしていた。彼はそれが何に関わるものだったかを決していわなかった。(彼は陸軍の研究所へ通いながら『源氏物語』を読んでいるといっていた。)—筆者和訳—]
湯川博士が陸軍の研究所で『源氏物語』を読んでいたというのは、原爆開発の参考になりそうな文献(「原子物語」)を講釈させられていたという意味と思われる(Scientific American 誌の英語圏の読者にはこの陰喩が分からないだろう)。
私の恩師で湯川博士の京大同期生だった木村毅一博士の随筆集にも、「荒勝研究室の残留組は、戦争中、研究資材の不足する中で、ウランの核分裂に関する研究にたずさわっていた。その頃、湯川教授や坂田氏、谷川氏などの理論家と、荒勝研究室の実験グループが一緒に核分裂に関する文献を読み、ウラン235の濃縮法についての検討をしばしば行なった」[2] 旨の記述がある。湯川博士が核兵器廃絶に熱心だった背後には、戦時中のこのような事情への反省もあったかも知れないと思わされる。
文献
- L. M. Brown and Y. Nambu, "Physicists in Wartime Japan" Sci. Amer. (December 1998); also included in "The Science of War: Nuclear History" Sci. Amer. Special Online Issue (2002).
- 木村毅一, 原子力関係研究の思い出,『アトムのひとりごと』p. 37 所収 (丸善, 1982).
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