2005年5月31日、堺市・笠池公園で。
高校時代の交換日記から
(Sam)
1952年8月22日(金)晴れ
昨夜は「ほろ酔いクイズ」の公開録音に行ったのだが、それは今夜八時から聞いて貰うことにして――、三番目の出場者がぼくだ。迷答ばかりし続け、司会者のヒントでようやく進んだものだから、第三問題で照れくさくなって止めてしまった。福正宗一升の処分にはだいぶん頭を悩ましたが、中央下に「大日本帝国印刷局製造」と印刷してある紙幣八枚で、父に買い上げて貰った。
ちょうどよい時間だった。"The Well" [1] は、初めは教育映画のようなつまらない(教育映画をつまらないというのではない。場面や俳優の演技がそんな感じを与えるのだ)ものかなという気がした。だが、六十フィートもある狭い古井戸の底にいるキャロリンという幼い黒人娘を、彼女を誘拐したという嫌疑で逮捕されたことのある元坑夫・クロードが助け出すあたりは、人種的差別を越えた温かいものがあった。この場面では、古井戸の横にもう一つ穴を掘って、そこから助けることになるのだが、その穴を掘るために使う機械のすばらしいのに驚いた。あんなものは今までに見たことがない。
それよりも、この映画でどうしても論じなければならないのは、人種問題である。とある噂から、白人対黒人の人種的対立となり、殺傷事件が相次ぎ、暴動にまで発展しかけるのである。それが寸前に、「彼女は古井戸の中に落っこちている」という真実が分かり、暴動に発展しなくて済み、クロードの無罪も明らかになるのだが、もしも、これが映画でないならば、本当に暴動化することもあり得るだろう。とすると、日本における青い目の子どもたちの問題や在日韓国人のデモも相似た事実として慎重に考えなければならない。そしてまた、根拠のない噂がいかに恐ろしいものであるかも、しみじみと考えさせられた。夏休みの英語宿題帳にある "Did these prejudices prevail only among the meanest and lowest of the people, perhaps they might be excused." という文には、いささか問題があるようだ。
通信帳 [2] を今までの二倍の価値のあるものにしよう、という意見には賛成である。現在のぼくのような使い方では、ノートがきっと泣いているであろう。しかし、いかに実行すべきかについて規定することは、非常に難しい。さしあたって、ここ当分の間、この目的に沿うよう、いろいろな方式を試みてみようではないか。
引用時の注
1951年製作、モノクロのアメリカ映画。下記レビュー参照:The Well (1951) (IMDb.com); Film Review "The Well" (TimeOut.com).
われわれの交換日記のこと。私が「今までの二倍の価値のあるものにしよう」と提案したようである。
[以下、最初の掲載サイトでのコメント欄から転記]
テディ 06/03/2005
アラバマ物語 "TO KILL A MOCKINGBIRD" が1962年の作品であるので、その10年以上前に人種問題を題材としたアメリカ映画があったのですね。初めて知りました。
Ted 06/03/2005
映画『アラバマ物語』と小説 "TO KILL A MOCKINGBIRD" のそれぞれの題名だけを別べつに知っていましたが、『アラバマ物語』は "TO KILL A MOCKINGBIRD" の映画化でしたか。
Y 06/04/2005
Sam さんはおおらかで、文章を読むと独特のしっかりとおとなびた、安定した視点がいつもあるように感じますね。こういう高校生が今の時代にも沢山育ってくれればいいと思いますが、なかなかそうはいきません。
Ted 06/04/2005
敗戦後まだ7年目、大人たちが日本の復興のために一生懸命に働いている姿が、当時の生徒たちをも、おおむね真面目な方向に導いたと思います。
0 件のコメント:
コメントを投稿