湯川は力の符合について、のちに次の通り語っている [1]。
第1論文では中間子はベクトルなんです。4次元的な意味でのベクトルなんです。ベクトルのスカラー成分だけ取るというつもりでやってる。だから力の符合が普通のスカラーと逆になるわけです。negative energy と positive energy の逆転です。第2論文ではスカラー中間子を取りあつかっています。
ここで、中間子がベクトルというのは、スピン1の量子という意味で、スカラー中間子とは、スピン0のものである。講演を収録した『自然』誌には、森田正人氏による解説 [2] がついており、上記の部分については、スカラー量、ベクトル量などのローレンツ変換について説明したのち、次のように記してある。
4成分を持ったベクトル中間子の第4成分だけを取り出して考えてみると、その性質は1成分しかないスカラー中間子の振舞いとほぼ同じようにみえる。しかし、核子と中間子の相互作用の結合定数をおのおの gV、gS とおくと、相互作用の相対論的不変性の要求から、ベクトル型には虚数単位 i が必要で、igV となるので、核力を計算するときこれらの自乗がきき、核力ポテンシャルは −g2VU(r) および +g2SU(r) となる。すなわち、エネルギーの符合は逆転し、一方が引力なら他方では斥力となる。
このブログ記事の第1報からここまでに記したようなことを、湯川秀樹を研究する市民の会の1月例会で話したところ、質疑応答の中で、Mさんから中間子論第1論文と第2論文に関連した武谷三男の言葉が紹介された。
(つづく)
- 湯川秀樹, ベータ崩壊の古代史 (1974年, 京都大学基礎物理学研究所での講演), 自然 1981-11 増刊, p. 204 所収 (1981).
- 森田正人, 「ベータ崩壊の古代史」解説, ibid. p. 214 (1981).
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