2011年7月6日水曜日

壮年の日の反逆:住民運動擁護の弁 3 (Rebellion in My Maturity: Defending Public Movements -3-)

Abstract: After my manuscript, as quoted in the previous posts, appeared in the organ of our labor union, four researchers including myself coauthored another manuscript in the circular of our institute. The then codirector requested us to rewrite our original manuscript into a nonagressive style, and we accepted it. The manuscript appeared in the circular (September 1977) is quoted here. (The main text is in Japanese only.)

 前報まで2回にわたって掲載した、私の労組機関紙への投稿に対して、すぐに同僚の一人から「自称・逆同人氏の同人」というペンネームで、「逆同人氏の主張に全く同感!」と題する投稿があった(1977年2月8日)。

 その後、当時の大阪府知事、黒田了一氏を支える団体、「革新府政をすすめる五分野の会」の所内連絡会において、私の投稿と同趣旨の文を、問題の「年頭所感」が掲載されたのと同じ、所の機関紙に何人かの連名で投稿しようということになり、連名メンバーでの討論を踏まえて私がまとめた原稿を機関紙担当の部署に提出した。それが機関紙の編集委員会で問題になったのか、その当時だけ存在した副所長職の方が編集委員長を兼任しておられたのか、記憶していないが、副所長から原稿の筆頭著者である私に対して、「所内に激しい対立があるような印象を外部に与えるのはまずいので、所長への反論という形ではなく、同じ問題について、あなた方はこう考えているという、穏やかな文にしてはどうか」というような助言があった。

 私たちはその助言を受け入れ、書き直した原稿を再投稿し、それが掲載された。以下はその掲載文である。なお、当時の所長は第3代目で、すでに故人となられ、共著者のうちの H・T 氏と A・T 氏も故人となった。第3代所長は性格的にはさっぱりした方で、その後も私と所内の廊下などで出会うと、親しく声をかけて貰った。


  [投稿] 原子力・公害問題について
         第1部 T・T 第2部 T・M 第3部 H・T 第4部 A・T
 本紙 Vol. 17, No. 4の「年頭所感」の中で、所長は原子力、公害などの問題に対する住民運動について、一つのご見解を述べておられました。私たちは、公立試験研究機関の所員として、住民運動の科学的側面をよく理解し、出来れば問題の解決に少しでも役立つよう、広い視野に立って問題を分析することが必要ではないかと思います。そこで、同じ問題について私たちの学んだことを、これを機会に簡単に紹介するとともに、それらに関する意見も述べてみたいと思います。
 1. 原発の問題について
 原子炉の事故例を調べてみますと、その中には、アメリカの SL-1 の臨界事故、イギリスのウィンズケールの環境汚染を伴った有名な事故など、重大なものがあり、国内の原発で発生した異常の中にも、蒸気発生器細管や燃料棒が多数破損し、欠陥炉となったり、長期間運転を停止したものが含まれています。このことから、私たちは、住民運動で事故の問題が重視されるのはもっともなことだと思います。また、諸外国における原発反対運動を眺めてみますと、原子力開発の本家ともいうべきアメリカにおいては、原発の是非をめぐる論争がわが国を上回る広がりと深さで展開されており、西ドイツやフランスでも反対運動が盛んに行なわれています。このことは、わが国での反対運動が必ずしも日本人の核アレルギーに発したものではないことを示していると思います。わが国原子力委員会の「原子力開発計画」は、原発の潜在的危険性の他に、温排水の影響、核燃料不足、放射性廃棄物処分の困難など、多くの問題をかかえたまま、ぼう大な原発開発を推進しようとするものであるとの批判も、多くの学者から出されているところです。原発問題の本質は、これらの主として自然科学的諸問題の他に、計画の背景にある国内外の政治経済にかかわる社会科学的諸問題をも含めた総合的視野に立って考えなければ、正しく把握出来ないとの主張に、私たちは同感するものです。
 2. 原子力船「むつ」の問題について
 この問題も、原子力船母港化に伴う沿岸開発の漁業に与える影響、船舶炉の軍事利用への転用の危険、安全審査の不十分さなど、根底に横たわる諸問題を合わせて考えなければ、その正確な評価は出来ないと思います。放射線漏れについても、「むつ」放射線漏れ問題調査委員会の調査報告の不備が指摘されており、完全に解明されたとはいえないと思います。また、「むつ」の原子炉が設計当時から旧式だったことや、炉の安全性に対する疑問点も指摘されています。日本学術会議でも「むつ」問題を深刻に受け止め、1974年10月、第445回運営審議会が政府に対し、安全にかかわる資料の公開と、民主的協議をつくして事後処置をすべきことを申し入れ、同年11月、第66回総会が国民の安全を守ることを最優先する立場から、「原子力安全の全般的な課題解決のために」という勧告を出しています。わが国の学者・研究者を代表する機関が、このように安全重視の立場をとっていることは、私たちの留意すべきことと思います。
 3. 水俣病の問題について
 環境庁等、行政当局がシロの判定をいく度も出したにもかかわらず、有明海沿岸、新潟県関川流域、徳山市などで、第3、第4の水俣病発生を示すと考えられる多くの事実のあることが報告されています。水俣病の診断にあたっては、ハンター・ラッセル症状が重視されていますが、水銀のとり込み条件の相違や、種々の個体差等の下で、ハンターらの報告した4死亡例と異なった症例が見られて当然であり、行政当局のシロ判定があったところは全く心配ないものと見ることは危険だとの警告を、私たちは尊重すべきだと思います。
 終わりに私たちは、科学者・研究者は「守るに難い安全性の問題」に十分慎重に対処するのでなければ、科学の両刃の剣的性格に対する科学者の自戒は達成出来ないのではないかと思っていることを述べておきます。
 参照した文献についてお知りになりたい方は、投稿者におたずね下さい。本稿作成にあたって、討論・助言をいただいた多くの方々に感謝します。[研究所だより Vol. 18, No. 2 (1977年9月)]


 以上、古い話だが、いま第一線で活躍している人びとが上司と意見が対立したような場合に、自分の正しいと思う考えを、十分な根拠を示してどうどうと反論する参考になれば幸いと思い、あえて記した次第である。

(完)

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