2005年9月11日日曜日

現代仮名づかいとローマ字表記 (II):セーダハル・ホー



 写真は、10月初めの秋祭りに備えて、ちょうちんを早くもつり下げたJR鳳駅舎
(記事には無関係。2005年9月10日撮影)。

 ローマ字のつづり方に関しては、昭和 29(1954)年 12 月 9 日付け内閣告示第一号がある。それによれば、長音は母音の上にアクサン-シルコンフレックス(山型のアクセント記号)をつけて表すことになっている。アクサン-シルコンフレックスは、しばしばバー(横棒)で代用されており、また、英字新聞などでは、この記号はつねに省略されている。

 Tokyo、Kyoto、Osaka などは、長音記号が省略されている例であるが、それでも十分に分かる。しかし、これらは長音記号の省略されたローマ字表記というより、都市名の英語化されたものという方がよいかも知れない。ところで、この話の前編に記した「鳳本通」を、長音記号なしでローマ字表記すれば、"Otori-hondori" となり、これでは「お通り、本通り」と読まれそうだ。内閣告示には、長音が「大文字の場合は、母音字を並べてもよい」とある。これを利用すれば、"Ootori-hondori" となるが、英語で oo は、pool のように長い「ウ」や、book のように撥音を伴う「ウ」として発音されることが気になる。

 エ列長音のローマ字表記では、普通、上記の簡単なきまりに従わないで、現代仮名づかい同様に i が挿入されているようである。たとえば、小渕恵三・元首相の名が、英字新聞では Keizo Obuchi となっていた。また、明治チョコレートの「明治」は Meiji となっている。慶応大学の英語表記も Keio University である。Keizo と Keio の例では、オ列長音の方は、きまり通りに記されているのである。また、オ列長音が二つも含まれる大江健三郎氏は、英字新聞でも、きまり通り Kenzaburo Oe と書かれている(人名のローマ字書きは、新聞社がきめるよりも、本人の署名での使用があれば、それが尊重されているだろうが)。

 エ列長音のローマ字表記に i が挿入されている理由はどこにあるのだろうか。思うに、英単語の go、no、so などでは、o が日本語のオ列長音のように発音される。しかし、e だけで日本語のエ列長音のように発音される英単語はなさそうである。そこで、英語文脈において、o をオ列長音のローマ字表記に使うことには不自然さはないが、e をエ列長音に使うのは不自然である。したがって、後者の場合、きまりに従わない、ということではないだろうか。

 名前のローマ字表記に関連して、ある新聞の古いコラム欄を思い出す。それは、1951 年 9 月 8 日のサンフランシスコ平和条約調印後まもない日のもので、そこには、吉田茂首相は調印の署名をヘボン式ローマ字で、"Shigeru Yoshida" と記したが、これではアメリカ人は「シャイゲール・ヨシャイダ」と読むだろう、と書いてあった。私はいまでも、英文の論文に Yoshida という著者名があると、心の中で「ヨシャイダ」と読んでほくそ笑むのである。

 ちなみに、朝永振一郎博士は、日本式ローマ字で自分の名前を書いていたので、英語の本に登場する場合にも "Sin'itiro Tomonaga" となっており、「シャインイチロー」と読まれる恐れはない。ついでにいえば、Sin の次のアポストロフ(')は、「シニチロー」と読まれることを防ぐためのものである。私の元同僚の…ンイチ君たちは、このようなアポストロフの用法を知らなかったのか、自分の名前のローマ字表記に誰もアポストロフを挿入していなかった。

 ローマ字書き名前に関しては、次のような新聞記事もあった。ソフトバンク・ホークスの王貞治監督が現役選手だった頃、彼の活躍ぶりを新聞で知っていた一アメリカ人が、その記事の著者である日本人記者に「セーダハル・ホーは、いまもホームランを打っているか」と聞いたという。王さんの名前には、ローマ字書きのきまり通りでない "Sadaharu Oh" という書き方が使われている。そのアメリカ人は "OH" を "HO" と読み違えていたのである。この話も私の頭にこびりついていて、いまなおテレビで王監督を見たりすると、「セーダハル・ホー」が脳裏に浮かぶ。

[以下、最初の掲載サイトでのコメント欄から転記]


ポー 09/11/2005 21:46
 上大岡(かみおおおか)という駅が横浜市営地下鉄にあるんですが、ローマ字表記は、ひらがなと同様、o が3つある「kamioooka」だったので、外国人がみたらきっとすごく奇異に見えるんだろうな、といつも思っていました。今はkamiookaとひとつ少なくなってます。

Ted 09/12/2005 08:17
 We find a lot of such spellings in "Surely you're Joking, Mr. Feynman!" They were used to strengthen words. On the first page, for example, there is this: "... and when the bulbs were in series, all half-lit, they would gloooooooooow, very pretty--it was great!" So, Americans might have thought "Kamioooka" to represent "Here is KAMIOKA!!!" not "KAMIOO'OKA."

四方館 09/11/2005 21:54
 私は、「shihohkan」と表記していますから、さしずめ、「シャイホーカン」と読まれるわけですか。(笑)

Ted 09/12/2005 08:19
 左様です。シャイホーカンさん。

0 件のコメント:

コメントを投稿