2005年9月10日土曜日

現代仮名づかいとローマ字表記 (I):気になる仮名づかい



 写真は、わが家の近くの鳳本通商店街アーケード入口上部を撮ったものである。「おおとり」という白い大きな横書き文字の下の「ほんどうり」という赤い文字は、現代仮名づかいのきまりでは誤りで、「ほんどおり」と書かなければならない。

 『広辞苑』の付録部分にある「仮名づかいについて」には、昭和21(1946)年11月内閣告示を整理して紹介してあるが、「通る」は『オ列の長音は、オ列の仮名に「う」をつけて書く』という本則の例外の一つで、「とおる」と書くことが述べられている。他の例外は「多い」「大きい」「氷」「遠い」などである。「仮名づかいについて」の説明中には記されていないが、昆虫のコオロギも例外の部類である。鳳は大鳥とも書くので、これを「おおとり」と書くのは、「大きい」の例外と同一だろう。

 しかし、なぜこのような例外が存在するのだろうか。歴史的仮名づかいを知る人ならば、これらの例外は、長音記号相当部分が歴史的仮名づかいで「ほ」となっているものであることに気づくだろう(例えば、「多い」は歴史的仮名づかいでは「おほい」と書く)。現代仮名づかいは「大体、現代語音にもとづいて書きあらわす」としながらも、なお歴史的仮名づかいの尾を強く引いているのである。

 オ列長音の長音記号相当部分を「う」と書くのも、語音通りとはいえない。「荒城の月」の最初の句「春高楼の花の宴」を歌うとき、「はるこーうーろーうーの…」とは発音しないで、「はるこーおーろーおーの…」と歌っているではないか。むしろ、「おおい」などの例外の方が、語音通りなのである。この点、ローマ字表記のきまりには例外がなく、「現代語音にもとづいて」という考えが徹底している。(つづく)

追記

 私の持っている『広辞苑』は版が古く(第3版、1983)、1986年に「現代仮名遣い」(ウェブサイトで読める [1])という内閣告示が出ていることを、上記の文を書いた段階で知らなかった。この新しい告示には、古い告示でオ列長音の例外としたものが少し拡張され、『歴史的仮名遣いで、オ列の仮名に「ほ」又は「を」が続くものであって、オ列の長音として発音されるか、オ・オ、コ・オのように発音されるかにかかわらず、オ列の仮名に「お」を添えて書くもの』という説明つきで例が挙げられており、「こおろぎ」も含まれている。また、新しい内閣告示の前書きには、「この仮名遣いにも歴史的仮名遣いを受け継いでいるところがあり」という表現があった。私は上記の文を書くに当たって、これらを読まないで、ほぼ正しく推定していたことになる。

文 献

  1. 現代仮名遣い, 昭和61年 (1986年) 7月1日内閣告示第1号.


[以下、最初の掲載サイトでのコメント欄から転記]


ポー 09/10/2005 11:33
 こどもがよくまちがって王様を「おおさま」と書いたりしますね。通りは「とおり」と発音するのに表記を「とうり」と間違えるのは不思議な感じです。鼻血が「はなじ」でよいという例外も気になっています。「ち」が濁音化しているので「ぢ」なのですが。そう考えると日本語って難しいですね。

Ted 09/10/2005 13:28
 鼻血の現代仮名づかいは「はなぢ」だと思います。『広辞苑』の見出し語としては、「はなじ」のところにありますが、見出し語の下に「(ぢ)」とあり、これが現代仮名づかいを示しています。『歴史的仮名づかいの「ぢ」は「じ」と書く』に対する「例外」と混同しておられませんか。

ポー 09/10/2005 15:40
 わたしも「はなぢ」が正しいと思っていたし、そのように習ったと思っていたのですが、こどもが小学校でひらがな練習をしたものでは「はなじ」となっていて、これが許容されているんだと驚きました。Googleで「はなじ」で検索したら「もしかして はなぢ」と出ました (笑)。まだ許容されている表記というわけではないということですね?

Ted 09/10/2005 20:26
 私の持っている『広辞苑』は版が古く(第3版、1983年)、1986年に「現代仮名遣い」という内閣告示が出ていたことを今知りました。しかし、それにも鼻血は二語の連合によって生じた「ぢ」の例として挙げられていますから、相変わらず「はなぢ」が正しいと思います。

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