2012年1月2日月曜日

美しい日本語 (Beautiful Japanese Words)


当地の元旦の空
The sky in the New Year morning here.

[Abstract] These days, strange expressions are found among vogue words in Japanese, and such are used even in a serous TV show. On the other hand, I have found beautiful Japanese words in Donald Keene's essay carried by the January-1st issue of The Asahi Shimbun. We perceive words as beautiful, not when they are highly rhetorical, but when they convey rich contents simply and accurately with mutual consideration. (The main text is given in Japanese only.)

 最近、「非常に〜である」という意味で「〜すぎる」といったり、「〜という得難い経験が出来る」という意味で「〜してしまえる」といったりすることが流行しているようだ。タレントか誰かがテレビでこのような表現を使い始めると、それがすぐに全国に普及し、誰もが使うようになる。

 昨日午後7時からのNHK・Eテレ「ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート2012」という真面目な番組の中で、上記のような表現が二つとも使われていたのには唖然とした。特に、「〜すぎる」という表現が、評論家か誰かの紹介のテロップに、「知りすぎている」というように使われていたのには驚く。「過ぎたるは及ばざるがごとし」という言葉があるから、これでは、その人物をけなしている意味にもなりかねない。——これは美しくない日本語の話である。

  他方、昨日の朝日紙で久しぶりに、たいへん美しい日本語にも出会った。それは「震災わすれないために」と題した文化欄中の「叙事詩となって蘇る」という文で、ニューヨーク生まれのドナルド・キーン氏の筆になるものだから、皮肉である。

 氏は昨年の東北地方太平洋沖地震を契機に、コロンビア大学を退職した後、日本国籍を取得し日本に永住する意思を表明した。その一文は記憶ということをめぐってつづられている。幼少期の記憶、日本の文豪との日々の記憶…。しかし、年を経てからの志賀直哉との会話の内容は、記憶力に自信があった頃のことで、記録を残さなかったが、今となっては忘却のかなたにあるという。私もこのところ、日記やブログが過去の記憶を忘却から大いに救ってくれていることを実感している。

 氏の話題はそこから昨年3月の震災に転じ、復興・蘇りには「諦め、無関心こそが敵であろう」と述べる。「諦め」は被災者自身に関わる言葉であるが、「無関心」は周囲の人びとに関わる言葉であることに注意したい。また、日本文学の中に災害を記録した文学が『方丈記』しかないと思えるほど少ないという発見に触れ、「過去の日本では…中略…悲惨で恐ろしい出来事は文学の題材に相応しくないと考えられたのかも知れない」との見解を示す。

 終盤で文頭にあった「記憶とは不思議なものだ」の言葉が再出し、「思いがけないひと時に、過ぎた日の断面が突然、蘇る」という事態について考察する。それは、経験が「数十年後に別の叙事詩となって戻って来る」ことと表現し、その蘇りが予想外であることを、「人が行動を起こす時、『これがやがては記憶へと変るのだろう』とは思わない」という習性と結びつける。最後に、「多くの人にとって、昨年は辛い記憶の残る1年となった。今年こそは素晴らしい記憶にあふれる年となることを祈っている」と、被災者たちへの温かい言葉を、記憶の語と結べつけて述べている。

 ——私はドナルド・キーン氏の文をなぜ美しい日本語と感じたのだろうか。「美しい日本語」とは美辞麗句のことではない。経験、文学、心理などに関わる豊かな内容が、思いやりの気持ちとともに、簡潔で的確な表現で述べられているところに美しさがあるのだろう。

2 件のコメント:

siegfried さんのコメント...

こんばんは、突然失礼致します。私も朝日新聞の新潮社の広告にあったドナルド・キーン氏の言葉に感動致しました。同時にお書きになった記事の方も拝読し、何度も読み直しております。

Ted さんのコメント...

siegfried さん、コメントをいただき、ありがとうございます。siegfried さんは、セネガルで青年海外協力隊のお仕事をしていらっしゃるのですね。お元気でご活躍されることを祈ります。