2012年9月1日土曜日

本の書き出しと末尾 (Opening and Ending Words of Books)


パヴェーゼ著、河島英昭訳『美しい夏』(岩波文庫)と
アゴタ・クリストフ著、堀茂樹訳『昨日』(早川文庫)
(アマゾンのウェブサイトから)。
Japanese translations of Cesare Pavese's La bella estate (The Fine Summer) and
Ágota Kristof's Hier (Yesterday) (taken from Amazon Japan Web site).

[Abstract] The other day, the "Vox Populi, Vox Dei" column of The Asahi Shimbun told about an event held at Kinokuniya Book Store, Shinjuku, Tokyo. In that event, they tried to sell paperbacks by showing the opening words only of each book. The author of that column wrote the opening words of the books he had bought. I found by the Internet search that those books were Japanese translations of Cesare Pavese's La bella estate (The Fine Summer) and Ágota Kristof's Hier (Yesterday). I write here about memories of senior high school days related to the opening and ending words of Japanese literary works. (Main text is given in Japanese only.)

 先日の朝日紙「天声人語」欄に、東京の紀伊国屋書店新宿本店で、書き出しの一文で文庫本を買って貰う試みの行なわれたことが紹介してあった。インターネットで「本の闇鍋」と評されたこの催しで、天声人語子は「あのころはいつもお祭りだった」と「昨日、心当たりのある風が吹いていた。以前にも出会ったことのある風だった」で始まる2冊を買ったという。インターネット検索で、これらの本は、パヴェーゼ著、河島英昭訳『美しい夏』(岩波文庫)とアゴタ・クリストフ著、堀茂樹訳『昨日』(早川文庫)と知れた。

 書き出しの一文や終わりの一文ががよく知られている文学作品もある。天声人語子が文頭に紹介している書き出しは、「メロスは激怒した」であり、この短編の題名は『走れメロス』とすぐに分かる。この作品の末尾の文も「勇者は、ひどく赤面した」と、いたって簡潔である。「吾輩は猫である」という書き出しは、そのまま題名にもなっており、「本の闇鍋」の商品には不適当であろう。『吾輩は…』の終りでは、「吾輩」が往生を遂げるのだが、最後の文までは覚えていなかった。いま、本を取り出してみると、「南無阿弥陀仏々々々々々々。有難い々々々」である。

 高校生時代に私と交換日記を書いていた M 君は 1951 年 6 月 4 日の日記に次のように書いていた。

 ホームの時間は例によって、日曜日の午後四時からのラジオ番組を真似たものをする。「『親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間程腰を抜かしたことがある』というのが私が皆様にお目見えした最初の挨拶です」…中略…など、ぼくの出題は説明が行き届き過ぎたためか、第一ヒントでずばりと当てられてばかりである。

「日曜日の午後四時からのラジオ番組」とは、当時 NHK で放送されていたクイズ番組「私は誰でしょう」のことである。私は M 君のこの日記の欄外に「『だから清のお墓は小日向の養源寺にある』というのが私の最後のことばです」と書いて、私も彼の第一ヒントで答えが分かったことを示した。

 当時は「話の泉」というクイズ番組もあり、ラジオの聴取者から問題が募集されていた。私はその年の暮れに、年の終りにちなんで文学作品の終りの言葉でその作品名を当てて貰う問題を作り、その一つに「だから清のお墓は小日向の養源寺にある」を使おうと思っていた。しかし、その思いは無精して実現しないで終わった。他にはどういう終りの言葉を入れるつもりだっただろうか。多分、「蛤(はまぐり)のふたみにわかれ行(ゆく)秋ぞ」、「それよりありきそめたるなめり。とぞほんに」、「『問ひ詰められて、え答へずなり侍(はんべ)りつ』と、諸人(しょにん)に語りて興じき」などを考えていただろう。

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