2012年9月23日日曜日

三浦俊彦著『ラッセルのパラドクス』 (Toshihiko Miura's "Russell's Paradox")


[Abstract] The other day, I finished reading the book "Russell's Paradox" written by Toshihiko Miura in Japanese. The author describes in this book not only Russell's Paradox but also Russell's contribution to logic in a manner understandable to lay-readers. I began to read this book several years ago, put aside until a recent day and continued reading from just the page where I left before. So, it is difficult for me to summarize the whole of this book. Instead, I write only about a point I had worried about and found to be solved soon. In the description of the "atomic sentence" and the "atomic fact," Miura writes that Russell thought there was no "molecular fact." This made me wonder if this is obviously so. However, it was soon proved that my understanding was close to Russell's own, because Miura added as follows: Russell thought that he might need to reconsider about the elimination of "molecular facts." (Main text is given in Japanese only.)

 先般、三浦俊彦著『ラッセルのパラドクス』(文献 1)を読み終えた。何年か前に途中まで読んで、読みづらいと思って投げ出してあった本だが、途中からの続きを読んでみると、意外に分かりやすかった。たまたま、ちょうど投げ出したあとあたりから、やさしくなっていたのかもしれない。

 「ラッセルのパラドクス」とは次のように説明されるものである。「自分自身の要素でない集合、の集合」R というものを考える。そして、R はそれ自身の要素であると仮定すれば、R の要素に対するもとの定義「それ自身の要素でない集合」と矛盾する。逆に R はそれ自身の要素でないと仮定すれば、R の要素のもとの定義から、それ自身の要素であることになり、仮定と矛盾する。つまり、どちらかが正しいはずの相反する仮定が、どちらも間違っているという結果になる。(ここでは、文献 2 の記述にならって記したので、二つの仮定を出す順序が三浦氏の著書とは逆になっている。)

 三浦氏の著書は、この「ラッセルのパラドクス」にふれてもいるが、それだけにとどまらないで、ラッセルが研究した論理学の世界をかなり深くかつ平易に概説したものでる。比較的よく理解したつもりでも、その全体をかいつまんで紹介することは、(途中で大きな休憩をしたせいでもあるが)困難であり、読後感として次のことだけを記しておこう。

 最も単純な文からなる「原子命題」についての説明のところ(p. 172)に、「原子命題は原子的事実を表現する一方で、分子命題[原子的でない命題]は分子的事実を表現するとは認められない。あるのは原子的事実だけで、分子的事実なるものはない、という差別をラッセルは設けるのである」という記述がある。私はこれを読んだとき、「その差別は妥当だろうか」という疑問を抱いた。そして、その少しあとに、「なお、ラッセルは、自説が分子的事実を排除していながら一般的事実[「すべては〜」型の一般命題(全称命題)が表現する事実]を認めることには矛盾があるかも知れず、分子的事実を認める方向で要再考かもしれない、と留保をつけている」と記してあるのを見て、私の理解はラッセル自身の理解に肉薄している、と思ったことであった。(文中、[ ]内は私の注記。)

 この本を読み上げた直後に、折よくもインターネットで「哲学対科学」という記事(文献 3)を見かけて、これについても少し考えさせられたが、それはまた別の機会に記すことにしたい。

文 献

  1. 三浦俊彦, ラッセルのパラドクス—世界を読み換える哲学— (岩波新書, 2005).
  2. "Russell's Paradox," in Stanford Encyclopdeia of Philosophy
  3. "Philosophy v science: which can answer the big questions of life?" Guardian (Sept. 9, 2012).

0 件のコメント:

コメントを投稿