2013年9月27日金曜日

漱石『草枕』の主人公が唱える芸術の「非人情」6 ("Detachment" Advocated for Arts by the Hero in Soseki's Kusamakura -6-)

[The main text of this post is in Japanese only.]


アヒル。堺市・中の池公園で、2013 年 9 月 14 日撮影。
Domestic ducks. The photo was taken in Nakanoike Park, Sakai, on September 14, 2013.

漱石『草枕』の主人公が唱える芸術の「非人情」6

 本シリーズの第 5 回では、漱石の『草枕』の第六章で展開されている、「非人情」の境地で得た興趣を絵にすることは難しいが、詩にはなりそうだ、という主人公の考察と、第七、八章の粗筋を紹介した。

 第九章では、主人公が部屋で英語で書かれた小説を読んでいるところへ、宿の女、那美が話に来る。話は小説の読み方から惚れ方へと進む。那美が「すると不人情な惚れ方をするのが画工(えかき)なんですね」といい、主人公は「不人情じゃありません。非人情な惚れ方をするんです。小説も非人情で読むから、筋なんかどうでもいいんです。こうして、御籤(おみくじ)を引くように、ぱっと開けて、開いた所を、漫然と読んでるのが面白いんです」という。「なるほど面白そうね。じゃ、今あなたが読んでいらっしゃる所を、少し話してちょうだい。どんな面白い事が出てくるか伺いたいから」「話しちゃ駄目です。画(え)だって話にしちゃ一文の価値(ねうち)もなくなるじゃありませんか」「ホホホそれじゃ読んで下さい」「英語でですか」「いいえ日本語で」「英語を日本語で読むのはつらいな」「いいじゃありませんか、非人情で」。地の文が、「もし世界に非人情な読み方があるとすればまさにこれである。聴く女ももとより非人情で聴いている」と説明する。——という具合に、ここには非人情が多く出る。

 主人公は那美に本を読み聞かせながら、「非人情だから、いい加減ですよ。ところどころ脱けるかも知れません」「普通の小説はみんな探偵が発明したものですよ。非人情なところがないから、ちっとも趣がない」などといえば、那美も「じゃ非人情の続きを伺いましょう。それから?」という。主人公が「男は女の手を把(と)る。鳴りやまぬ弦(ゆづる)を握った心地である。……」と読むと、「あんまり非人情でもないようですね」「なにこれが非人情的に聞けるのですよ。しかし厭(いや)なら少々略しましょうか」。

 そこへ地震が起こり、一羽の雉子(きじ)が藪の中から飛び出す。主人公「雉子が」。「どこに」と那美がすり寄る。二人の顔が触れんばかりに近づく。「非人情ですよ」と那美。「無論」と主人公。——主人公は、非人情の芸術製作を離れて、非人情の体験を盛んに積んでおる。(引用文中の非人情への下線は引用者による。)(つづく)

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