近眼に老眼が加わった私は、メガネを三つ持っている。それらは、読書用、屋内用、外出用で、この順に近視向けレンズの度が強くなっている。コンピュータで仕事をするには、屋内用がちょうどよい。新聞を読むのも、広い紙面をざっと眺めるには、屋内用がよい。精読したい記事には読書用が必要になる。しかし、読書用を必ず使うのは、朝日新聞夕刊に月一回掲載される評論記事くらいのものである。
その評論記事は、加藤周一の「夕陽妄語」欄である。他の記事に読書用目がねをほとんど使わないのは、屋内用でも、新聞活字を読むのに、さほど不便がないからでもあるが、その目がねをおいてある書斎へ紙面を持参してまで読みたいほどの好記事が少ないからである。
12 月の「夕陽妄語」欄(20 日付け)は、「日本 2004 年」と題して、10 年後に思い出されるであろうわが国での今年の出来事を論じている。まず、新潟の地震を挙げ、それが天災であるのみでなく、地震対策が神戸の経験から十分学んでいなかった点で、人災でもあることに言及する。そして、台風の災害でも、「危険なところに、危険な家が建っていた」と指摘する。
テレビ報道が私の脳裏に焼き付いている台風の惨事の一つに、バスの屋根の上で不安な一夜を明かさなければならなかった人たちの経験がある。幸い一同の命に別状はなかったものの、これにも行政への連絡が的確に受け渡しされなかった人災の面があった。
加藤は、次いで 100% 人災である出来事を述べる。それは、『政府・与党が野党の多数議員と共に企てた「平和憲法」改定の計画』である。これに関連し、著者は「外国の軍事的攻撃の確率は、正当な対外政策によって小さく」できるとして、1970 年代に「中国の脅威」が激減したのは、自衛隊の戦闘機の数の増大によるのではなく、日中平和友好条約が調印されたからであるという歴史的 1 例を挙げ、説得力のある論述をしている。
さらに、加藤は、「将来の結果が 2004 年の行動の意味を決定するであろう事例」として、首相の靖国神社参拝を挙げ、その日中関係に対する「影響の拡がりと深さは、ほとんど測り知れない」とする。
一連の論旨に、私はまったく同感するものである。「夕陽妄語」の内容は、けっして、「うそつき」の意味の妄語ではない。これは、最も明せきな時評の一つであろう。『広辞苑』によれば、妄語には、「妄語戒の略」という意味もある。妄語戒とは、仏教五戒・十戒の一つで、うそをつくなという戒めだそうだ。とすれば、加藤は妄語の第 1 義である「うそつき」を装って、実は、この戒めに従い、これこそが真実であろう、という視点をつねに示しているのである。
コメント(最初の掲載サイトから若干編集して転載)
Y 12/23/2004 09:40
Ted さんのブログが私には、どんな状態の時でも一番読みやすく、また内容も実に多彩なので、愛読者のひとりなんです。
政治音痴の私ですが、加藤周一さんはすぐれた方だと思っていました。天災であるだけでなく、十分人災でもある被害について、前もってどれだけ対策を打つ余裕が行政側にあるのか、私には想像つかないのです。加藤さんのような言うべき人が指摘しなければ、何も動き出さないでしょう。
軍事について、「正当な対外対策によって小さく」出来るとして歴史的事実に即して説得してくださるのなら、このような冷静な判断力をもった方にこそ次の一歩を何か踏み出して欲しいと期待しますね。
Ted さんとしては、Ted さんの言述行為でもって何か社会的に「平和」ということへの貢献ができれば、ということはよくお考えになっているのですか? Ted さんの科学者さんとしてのお立場だからこそ出来る言述行為も多いでしょうね。応援しています。
Ted 12/23/2004 11:57
加藤周一さんは、憲法 9 条を守ろうという運動を進める「九条の会」の全国的な呼びかけ人 9 名の一人。私は、堺で同様な運動を進めようとしている 10 人の呼びかけ人の一人に過ぎませんが、微力ながら出来ることをしたいと思っています。応援ありがとうございます。
loco 12/25/2004 10:20
「正当な対外政策」によって北朝鮮の拉致問題が少しでもいい方向に向かうのを期待したいですね。
Ted 12/25/2004 10:28
Yes, it's one of the most important and urgent problems that require good diplomatic policy.
その評論記事は、加藤周一の「夕陽妄語」欄である。他の記事に読書用目がねをほとんど使わないのは、屋内用でも、新聞活字を読むのに、さほど不便がないからでもあるが、その目がねをおいてある書斎へ紙面を持参してまで読みたいほどの好記事が少ないからである。
12 月の「夕陽妄語」欄(20 日付け)は、「日本 2004 年」と題して、10 年後に思い出されるであろうわが国での今年の出来事を論じている。まず、新潟の地震を挙げ、それが天災であるのみでなく、地震対策が神戸の経験から十分学んでいなかった点で、人災でもあることに言及する。そして、台風の災害でも、「危険なところに、危険な家が建っていた」と指摘する。
テレビ報道が私の脳裏に焼き付いている台風の惨事の一つに、バスの屋根の上で不安な一夜を明かさなければならなかった人たちの経験がある。幸い一同の命に別状はなかったものの、これにも行政への連絡が的確に受け渡しされなかった人災の面があった。
加藤は、次いで 100% 人災である出来事を述べる。それは、『政府・与党が野党の多数議員と共に企てた「平和憲法」改定の計画』である。これに関連し、著者は「外国の軍事的攻撃の確率は、正当な対外政策によって小さく」できるとして、1970 年代に「中国の脅威」が激減したのは、自衛隊の戦闘機の数の増大によるのではなく、日中平和友好条約が調印されたからであるという歴史的 1 例を挙げ、説得力のある論述をしている。
さらに、加藤は、「将来の結果が 2004 年の行動の意味を決定するであろう事例」として、首相の靖国神社参拝を挙げ、その日中関係に対する「影響の拡がりと深さは、ほとんど測り知れない」とする。
一連の論旨に、私はまったく同感するものである。「夕陽妄語」の内容は、けっして、「うそつき」の意味の妄語ではない。これは、最も明せきな時評の一つであろう。『広辞苑』によれば、妄語には、「妄語戒の略」という意味もある。妄語戒とは、仏教五戒・十戒の一つで、うそをつくなという戒めだそうだ。とすれば、加藤は妄語の第 1 義である「うそつき」を装って、実は、この戒めに従い、これこそが真実であろう、という視点をつねに示しているのである。
コメント(最初の掲載サイトから若干編集して転載)
Y 12/23/2004 09:40
Ted さんのブログが私には、どんな状態の時でも一番読みやすく、また内容も実に多彩なので、愛読者のひとりなんです。
政治音痴の私ですが、加藤周一さんはすぐれた方だと思っていました。天災であるだけでなく、十分人災でもある被害について、前もってどれだけ対策を打つ余裕が行政側にあるのか、私には想像つかないのです。加藤さんのような言うべき人が指摘しなければ、何も動き出さないでしょう。
軍事について、「正当な対外対策によって小さく」出来るとして歴史的事実に即して説得してくださるのなら、このような冷静な判断力をもった方にこそ次の一歩を何か踏み出して欲しいと期待しますね。
Ted さんとしては、Ted さんの言述行為でもって何か社会的に「平和」ということへの貢献ができれば、ということはよくお考えになっているのですか? Ted さんの科学者さんとしてのお立場だからこそ出来る言述行為も多いでしょうね。応援しています。
Ted 12/23/2004 11:57
加藤周一さんは、憲法 9 条を守ろうという運動を進める「九条の会」の全国的な呼びかけ人 9 名の一人。私は、堺で同様な運動を進めようとしている 10 人の呼びかけ人の一人に過ぎませんが、微力ながら出来ることをしたいと思っています。応援ありがとうございます。
loco 12/25/2004 10:20
「正当な対外政策」によって北朝鮮の拉致問題が少しでもいい方向に向かうのを期待したいですね。
Ted 12/25/2004 10:28
Yes, it's one of the most important and urgent problems that require good diplomatic policy.
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