2011年3月21日月曜日

シーベルトとベクレルという単位 (Units of Sievert and Becquerel)

Abstract: Units of sievert and becquerel are explained. Limits on external exposure to ionizing radiation and intake of radioactive materials are mentioned. (The main text is only in Japanese.)

 福島原発の事故に関して、周辺に放出される放射線の量が1時間当りの「シーベルト」単位で報道されて来たが、原発周辺の土地でとれる飲食物に放射能が含まれ始めたことから1キログラム当りの「ベクレル」という単位が新たに登場することになった。同じような放射線について、なぜ異なる単位が使われるのか、と疑問に思う人びとも多いだろう。

 NHKニュースのウエブページ

「シーベルト」が放射線が人体に与える影響を示す単位であるのに対して、「ベクレル (Bq)」は、放射性物質の量を示す単位です。ベクレルは、放射性物質を含む食品や水を食べたり飲んだりすることによる放射線の影響を防ぐために、安全基準の単位としても使われています。放射性物質ごとの摂取の制限についての指標の値は次のとおりです。放射性ヨウ素では、いずれも1キログラム当たりで、飲料水や牛乳が300ベクレル、野菜が2000ベクレル。放射性セシウムでは、いずれも1キログラム当たりで、飲料水や牛乳が200ベクレル、野菜や穀物、それに肉や卵、魚が500ベクレルとなっています。

と説明している。この表現は分かりやすさを目指したものになっていて、おおむね正しくはある。しかし、厳密にいえば、「ベクレル」は放射能の単位で、1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能である。「放射性物質の量」を持ち出すならば、正しくは、その「目安となる」というべきであろう。この単位は、主に飲食物を通じての放射性物質の摂取に関係する。

 他方、「シーベルト」は放射線の外部被ばくに主に関係しており、厳密に説明しようとすればば、かなりややこしい。これは「等価線量」の単位であって、「等価線量」とは、外部放射線を受けた人体組織の吸収線量(単位としてグレイが使われる)に放射線荷重係数を掛けたものである。ここで、吸収線量とは、単位質量の物質に電離放射線を照射して、そのイオン化作用によって発生するエネルギーを計測する単位系である。また、放射線荷重係数とは、物理的な吸収線量が同じでも、受けた放射線の種類によって人体への影響が異なること考慮するための値で、国際放射線防護委員会の勧告によって、X線・ガンマ線・ベータ線では 1、陽子線では 5、アルファ線では 20、中性子線ではエネルギーによって 5〜20 と決められている。

 「シーベルト」と「ベクレル」が表す量は、このように異なっており、外部被ばくと内部被ばくの人体に対する影響も異なるため、これらの数値を互いに換算する一般的な関係は特にない。被ばくの防護対策としては、それぞれについての制限指標に基づくことになる。

 わが国での指標は、『「原子力施設等の防災対策について」の一部改訂について』[平成22 (2010) 年8月23日 原子力安全委員会決定]に示されている。外部被ばくについては、p. 22 の「屋内退避及び避難等に関する指標」が、ミリシーベルト単位の等価線量(発表されている1時間当りの等価線量と比較するには、被ばくする可能性のある時間数で割る必要がある)での表になっている。簡単にいえば、10〜50ミリシーベルトの被ばくの恐れがあるときは屋内退避、50ミリシーベルト以上になる恐れがあるときは避難、ということである。空気中に飛散した特定放射性核種が、人体の特定部位に内部ばくを生じる場合の等価線量の指標も併記されていて、屋内退避と避難のそれぞれが必要な値は、どちらも外部被ばくの場合の一桁上となっている。

 放射能を有する飲食物については、上記資料の p. 23 にある「飲食物摂取制限に関する指標」が、1キログラム当りの放射能、ベクレル/kg 単位での表になっている。記載されている値は、上に引用したNHKニュースのウエブページに記されている通りである。

 なお、シーベルトという単位名は、放射線防護の研究で功績のあったスウェーデンの物理学者ロルフ・マキシミリアン・シーベルト(Rolf Maximilian Sievert, 1896〜1966年)に因んだもので、ベクレルという単位名は、ウランの放射能を発見してノーベル物理学賞を受賞したフランスの物理学者アントワーヌ・アンリ・ベクレル(Antoine Henri Becquerel, 1852〜1908年)に因んでいる。放射能の単位としてベクレルが使用される以前には、放射線研究の先駆者であるピエール・キュリーとマリ・キュリーの夫妻に因んで、キュリーという単位が使われていた。1キュリーは、3.7×1010ベクレルに等しい。

 後日の追記:一般の方が放射線について学ぶためにおすすめしたいインターネット上の資料としては、高エネルギー加速器研究機構・放射線科学センター作成の「暮らしの中の放射線」がある (via @yakuruma of Twitter)。目次の興味ある項目をクリックして見ることが出来、また、目次最下部の「ダウンロード」の文字をクリックして、全体をダウンロードすることも出来る。

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