2010年1月18日月曜日

『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』 ("Capitalism: A Love Story")

 マイケル・ムーア監督の新作映画『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』を先日見た。同監督は、アメリカの銃社会の問題を扱った『ボウリング・フォー・コロンバイン』や、ブッシュのイラク戦争を批判した『華氏911』などのドキュメンタリー映画で知られている。『キャピタリズム』は、2007年に始まった経済危機がアメリカにもたらしている諸様相を取り上げ、その元凶が、経営者と金持ちがマネー愛におぼれる資本主義の構造でることを痛烈に指摘している。

 だれもが裕福になれる可能性があるというアメリカン・ドリームにだまされて来た労働者・住民が、力を合わせて銀行に立ち向かう場面などからは、日本の国民も大企業優遇の政府にだまされ続けていてはいけないというメッセージを感じないわけにはいかない。日本は労働者の団結の自由を保障した憲法を持っている点で、アメリカよりもましであるように述べた箇所があったが、最近は労働組合の組織率が年々低下し [1]、現実には憲法で保障された団結権はいささか空文化しているといえよう。

 バラク・オバマの大統領当選が、アメリカにおける明るい兆しとして描かれているが、一昨日の朝日紙は、「フロント・ランナー」欄でムーア監督を取り上げ、彼が昨年12月1日に来日した際、その日、オバマ大統領がアフガン増派を発表する予定であることに落胆していたと伝えている [2]。私もオバマ大統領のアフガン増派政策と、その釈明を中心とした彼のノーベル平和賞受賞講演には、大いにがっかりした。

 なお、ムーア監督はこの映画で、資本主義に代って、民主主義が進められるべきだとの見解を発しているように取れた。しかし、資本主義とは経済構造を中心とした面から見た社会のありようであり、民主主義とは政治の運営形態を中心とした面から見た社会のあり方であって、分類の範疇が異なる。経済構造が政治の運営形態に大きく影響するにしても、概念としては、民主主義のもとでの資本主義や社会主義は、ともにあり得る。この映画が指摘している通りの資本主義の欠陥を是正するはずの社会主義が、独裁主義と多く結びついて来たのは、人類にとって不幸な歴史であろう。

 ただし、民主主義が資本主義に取って代るべきと主張しているように取れたのは、日本語字幕のせいかも知れない。英語ではこれらは democracy と capitalism であって、語尾が異なるため、前者がそっくり後者の代替物になり得るという感じは出にくい。

文献

  1. 「労働組合」, フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 [2009年12月14日 (月) 13:20].

  2. 石飛徳樹,「映画監督マイケル・ムーアさん(55歳):反骨の人、資本主義にメス」, 朝日新聞, 2010年1月16日づけ, p. b1.

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