さる12月2日、松本清張・原作、犬童一心・監督の映画『ゼロの焦点』を見た。「アカデミー賞に輝く3人の女優(広末涼子、中谷美紀、木村多江)が共演」という広告文の影響がなかったとはいえないが、見る気になった主な理由は、原作をかつて読んだことがあり、私の故郷・金沢とその周辺が舞台になっているということである。
金沢の雪景色は、昔の映像を利用したのかと思ったが、たまたま当日の朝日紙夕刊に、俳優・黒田福美さんの文 [1] があった。黒田さんはこの映画に日本初の女性市長候補(原作にはないエピソードである)として出演している。彼女の文は、雪深い昭和30年代の金沢の市街の場面が、韓国・ソウルの「富川(ブチョン)ファンタスティックスタジオ」で撮影されたことを明かしていた。そうとは気づかないほど、金沢らしい風景であった。ただ、走っている路面電車の車体の茶色は、私の記憶にある金沢の市電と比較して明る過ぎた。
黒田さんは上記の文の中で、「民間レベルで息を詰めるようにして積み重ねてきた」日本と韓国の間の信頼は、「いつも誰かの不用意な一言、相手を逆撫でするような行為によって突き崩されるのが常だった」と述べ、それらは政治家の「妄言」、歴史教科書問題、靖国参拝、竹島を巡る論争など、と指摘している。しかし、そのようなことを繰り返しながらも、時代は少しずつ変化し、前へ進んできたようにも思われるとし、松本清張生誕百年を記念する『ゼロの焦点』の撮影現場に見られたような雪解けが、来年の日韓併合100年から未来へ向けて踏み出す「新しい一歩」にも訪れることを願う、と結んでいる。
民間レベルで積み上げた交流を政治的な発言が突き崩してきたということは、日本と中国の関係についてもいえる。日本とアジア諸国との関係において、黒田さんが記しているような願いを損なわない政治が望まれる。
文献
黒田福美, 映画「ゼロの焦点」支えた韓国:「もうひとつの百年」を前に, 朝日新聞(夕刊)(2009年12月2日).
民間レベルで積み重ねられてきたものが今後誰かの不必要な言動で再び崩されることがなければいいのにと私も思います。
返信削除路面電車の色合いの違いの指摘は地元の方でなければなかなか気づかないかもしれませんね。私自身はドラマを見ることができなかったのですが、原作の方は読んだことがあります。
金沢の路面電車が、いまはなくなっていることが惜しまれます。
返信削除