2005年8月25日木曜日

「有権者に迫る総選挙の選択肢」:日本語中の休止

 四方館さんのブログ記事「しぐるるや石をきざんで仏となす」に次のところがあった。

<菅谷規矩雄の「詩的リズム――音数律に関するノート」からのメモ-2> 以下は前掲載につづく菅谷規矩雄の作業仮説ともいうべき本書の第一章「詩的リズム」より要約の後半部分である。…中略…
14、休止とはなにか <休止が群団化の標識>であることを、時枝は指摘したが、詩的リズムの構成にあっては、この休止が長短=二様のあらわれかたをすること ハマノ(-)マサゴト(-)ゴエモンガ(-) この十二の音節は、次の3・4・5音パターンとのあいだに、無音の拍=休止(-)を含むことを必須としている。…後略…

 ここに引用した四方館さんの要約中「14、休止とはなにか」に関連して、私は NHK アナウンサーのニュース朗読などにおいて、休止がしばしば間違った場所へ挿入されているように感じることを思い浮かべる。具体的な実例は、いま思い出さないが、8月24日付け朝日新聞夕刊のトップ記事にある文を例に使って、説明してみよう。

 「郵政民営化に賛成か反対か」。小泉首相が有権者に迫る総選挙の選択肢は二者択一だ。

 「小泉首相」以下を、次のような休止(-)の挿入で読んだとしよう。
 (1) 小泉首相が(-)有権者に迫る総選挙の(-)選択肢は二者択一だ。
これでは、リズムがよいようであっても、意味としては、小泉首相が迫るのは総選挙のように聞こえる。もっとも、小泉さんは参院での郵政民営化法案否決を受けて、衆院を解散し、有権者に総選挙を迫ったが、この文で「迫っている」といいたいのは、「二者択一」である。そこで、このニュアンスをはっきりさせるには、次のように休止をとるべきだろう。
 (2) 小泉首相が有権者に迫る(-)総選挙の選択肢は(-)二者択一だ。

 例 (1) 中の2番目の休止のような、修飾語と被修飾語を無残にぶっちぎる朗読が多いように思えてならない。そういう朗読を聞くたびに、私は頭の中で、自分に納得の行く朗読をしてみる。

 なお、この文は、次のように書き換えれば、休止をどこへ入れるかの問題は、大幅に緩和される。文を作るときの語順にも注意したいものだ。
 (3) 総選挙で小泉首相が有権者に迫る選択肢は二者択一だ。

 さて、朝日新聞の上記記事の見出しに「郵政だけが争点じゃない」とあるのは、正論であろう。しかし、小見出しには「年金」「外交」「イラク」とあるのみである。「憲法」「福祉」「教育」などに対する各党の態度もよく見定めて、投票したい。

四方館 08/26/2005 14:24
 短歌や俳句の句切れの問題と同じように、日本語の文章をどこで区切り休止-息つぎとするかは、意味の伝達において生命線であるのは当然のことですネ。(1) の読み方では、主語-述語関係が乱れてしまい、訳がわからなくなってしまいますネ。(2) ならば、前段に小さい主語-術語関係があり、その前段全体が、後段の本来の主部=総選挙の選択肢を修飾するという文の構造が明瞭になって、意味が通じることになりますネ。

Ted 08/26/2005 15:39
 私の記事中、(1) の下の文の末尾に「聞こえまる」というミスがあり、失礼しました。大阪弁のなり損ねのようで、いま訂正しながら、しばらく自分で笑いが止まりませんでした。
 英語は、長いセンテンスでも、関係代名詞の存在や、人称・数による動詞の変化などから、主語-術語関係の理解が比較的容易で、息つぎにそれほど頼る必要がないようです。分かりやすい朗読には、やはり正しい息つぎをしなければならないのでしょうけれども。

0 件のコメント:

コメントを投稿