M.Y. 君から "Ted's Coffeehouse 2" 2009年7月分への感想を8月15日づけで貰った。同君の了承を得て、ここに紹介する。青色の文字をクリックすると、言及されている記事が別ウインドウに開く。
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7月には毎日の花の便りに、随筆「言葉と政治」、「京大と台湾大の加速器」、「日本の科学の明暗」、「ファインマンの漫画的手法」、"HAYABUSA: Back to the Earth" や映画評「愛を読む人」、旅の記録「高岡と氷見へ」が織り込まれています。暑さの中、これだけの内容の記事を書き続けられることに、充実した日々の生活の様子が感じられます。
花の便りは、自宅の花やウォーキング途中で見たものなど20数回にもおよび、写真を見、説明を読んで楽しんでいます。庭に咲く宿根性の花は、去年は咲かなかったが今年は咲いたなど、喜びといたわりの気持ちが伝わってきます。二色ムクゲについて、170,000枚のグーグル・イメージ中から、10ページあるいはそれ以上見て、ようやくこの花と同じような配色のものにいきあたり、かなり珍しい種類だと判定しています。
「言葉と政治」では、詩人ビナードさんが「言葉がむしばまれたとき、それを立て直すのも詩人の仕事だ」と述べていることを紹介し、現在意味がすり替えられている言葉の例が挙げられています。それらの言葉に対するビナードさんの真実をつく説明は、言い得て妙だと感心しました。
「高岡と氷見へ」(1から3まで続く)には、奥様との恒例の金沢での墓参の翌日、親戚の人たちと旧交を温めた旅を記してあり、心に響くものでした。5年前に氷見の漁港の写真を撮って絵にしたものと、今回も大きく変わらない同じ場所で撮った写真が掲載されています。高岡の国宝・瑞龍寺、富山新港の海王丸パーク(同船2世は、横浜開港150周年に記念行事に参加し、7月末日には横浜大桟橋で日本丸と共に満帆の雄姿を披露しました)、氷見の祇園祭りの紹介も随所に入っています。
"HAYABUSA: Back to the Earth" は小惑星探査衛星が地球を出発して、同惑星に到着し、岩石を採集して地球への帰り道をたどるまで(明年6月帰還予定)の感動的な約40分の映画とのこと。『愛を読む人』は前半でミヒャエルが朗読するエピソードのあらましを筆者は知っていたような気がすると思い(この辺は『アラバマ物語』の場合に似ています)、それはともかく、この作品に潜んでいる重いテーマは、ナチスによるホロコーストの歴史を後世に正しく伝える重要性を訴えていることであるとし、「わが国においても、太平洋戦争の歴史を歪めて教えられるようなことがあってはならない」と警告しています。
「京大と台湾大の加速器」には、戦後、GHQが廃棄した、京大に建設中だったサイクロトロンの「再建の物語」が書かれています。日本が原子爆弾を作ることがないようにと、核物理研究の芽を根絶するために廃棄したものと思われます。原子爆弾製造計画では、ウランのうち核分裂をするU-235を分離する方法としてサイクロトロンを用いた電磁分離法(後述のローレンスが中心になった)、ガス拡散分離法、遠心分離法などが同時並行的に開発され、U-235の分離が行われました。結局ものになったのはガス拡散分離法で、サイクロトロンは原子爆弾製造には実用的ではありませんでした。破壊することが研究の芽を絶やす象徴として利用されたのでしょう。
終戦当時、私たちは国民学校の4年生でしたが、11月頃から、教科書中の戦争に関した用語、写真や記述を、クラスを挙げて探し出し墨で塗りつぶす作業が行われました。靖国神社はいうまでもありませんでした。修身と国語教科書はほとんどが墨で塗られ、教科書の用をなさなくなりました。5年か6年の国語の教科書の中には「佐久間艇長の遺書」(瀬戸内海で訓練中の潜水艦が浮上できなくなった時、艇長が書き残した遺書)がありました。姉が音読していたのをよく聞き憶えていました。水村美苗氏が最近の著書の中で、この遺書を優れた文章だと褒め称えていました。内容の如何は問わず、これらも塗り潰されたことでしょう。サイクロトロンの廃棄と機を一にする教育の場での象徴的な儀式でした。
木村毅一著『アトムのひとりごと』に「昭和25年にローレンスが日本を訪れて、日本も原子核研究を始めてはどうか、サイクロトロンを再建するならば充分な協力を惜しまないと言ったので再建を考えた」とあります。その後アイゼンハワー米大統領の国連総会における「原子力を平和のために利用することの勧告(atom for peace)」があり、わが国の原子核研究や原子力の平和利用が促進され、今日の隆盛を見るに至り、「日本の科学の明暗」へと続くことになります。
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