高校時代の交換日記から。
(Ted)
1952 年 1 月 29 日(火)曇り一時雨
Y・S 先生の代理で来られた T・K 先生に質問したが、y=3 − √(8 − 2x + x2) がどんな形を取るかということぐらいで行き詰まっていた自分がばからしくなった。T・K 先生の説明はよかった。
国語の時間、塚本勝義編『体系的現代文学選』が配付される。内容については、これからの折おりに書くだろう。
ホームルーム時は卓球大会。講堂でトーナメント式個人戦を行う。1 回戦で負けて、ホームで早飯をしたので、誰が優勝したか知らない。対校戦出場経験のある IK 君も負けていたから、TK 君あたりだろうか。
図画、よくならない。重量感が乏しい。
生物、Vicky ばかりが手を上げて、AS 先生の信頼を得ている。日光をさえぎらなければならないことぐらい分かっていたが、水銀槽へ入っていない方の管に栓をしてないという図の欠点に気をとられて、手を上げ遅れた。
『新樹』誌への原稿「反省点綴」が、同誌編集委員長 YS 君(3年生)から、パラグラフ毎に字数を記入するようにと、一旦返却された。——おう、くだらない。下水道を流れる水のような色しか感じられない。「M 君」と書き出してあるが、Sam に読んで貰う気はさらにない。せっかく載せてくれるのに、こんなものを書いてしまって! 14 枚、読んでいて退屈する。数カ所に引用させてもらった M 君、すなわち Sam のことばだけが光を放っている。しかし、それらにも、ぼくのまずい脈絡と暗くて単調な文章が錆をかぶせてしまいそうだ。——
(Sam)
明日試験なのだからといって、生物は自習にして貰った。しかし、何もすることがなく、あくびばかりしていた。先生の講義をノートしている方が、手が動いていて、退屈しない。
"He went to sleep, thinking of his mother back home." の訳だが、Ted だったら、「家にいる彼の母を想って」とするかい、それとも「彼の母が帰宅するだろうと思って」とするかい。
[引用時の注]
私が述べている『新樹』は、菫台高校生徒会発行の雑誌で、3 年生の卒業を記念する意味もあり、各年度末に 1 回発行されていた。私の文「反省点綴」は第 3 号に掲載された。高校生になったばかりの 4、5 月頃の心境について日記をもとにまとめたものである。手元には私が 3 年生のときの第 5 号しか残っていない。粗末な紙で、184 ページ。その号には、私が書いた創作「夏空に輝く星」(2 年生の夏休みに国語の宿題として提出したもの)と「ヘンリー・ライクロフトの手記」(ジョージ・ギッシング著の同書の紹介)が掲載されている。
「夏空に輝く星」といえば、われわれの学校の女生徒たちが、「恋愛小説?」「モデルは?」などと、そのうわさをしているのを、私の伯母が病院の待合室で、たまたま耳にしたそうだ。それは、『新樹』5 号の発行前だったから、この作品が掲載されることをあらかじめ知っていた生徒は、『新樹』編集委員会のメンバーということになる。5 号の編集委員長は同期の NK さんという女生徒だったが、彼女は体育祭の実行委員長もした頑丈な身体の持ち主だったし、家がその病院からは遠い区域だったから、そこへ来ていたとは考えにくい。うわさをしていたのは誰だれか? その謎を何十年ぶりかで、ふと思い出した。
(Ted)
1952 年 1 月 29 日(火)曇り一時雨
Y・S 先生の代理で来られた T・K 先生に質問したが、y=3 − √(8 − 2x + x2) がどんな形を取るかということぐらいで行き詰まっていた自分がばからしくなった。T・K 先生の説明はよかった。
国語の時間、塚本勝義編『体系的現代文学選』が配付される。内容については、これからの折おりに書くだろう。
ホームルーム時は卓球大会。講堂でトーナメント式個人戦を行う。1 回戦で負けて、ホームで早飯をしたので、誰が優勝したか知らない。対校戦出場経験のある IK 君も負けていたから、TK 君あたりだろうか。
図画、よくならない。重量感が乏しい。
生物、Vicky ばかりが手を上げて、AS 先生の信頼を得ている。日光をさえぎらなければならないことぐらい分かっていたが、水銀槽へ入っていない方の管に栓をしてないという図の欠点に気をとられて、手を上げ遅れた。
『新樹』誌への原稿「反省点綴」が、同誌編集委員長 YS 君(3年生)から、パラグラフ毎に字数を記入するようにと、一旦返却された。——おう、くだらない。下水道を流れる水のような色しか感じられない。「M 君」と書き出してあるが、Sam に読んで貰う気はさらにない。せっかく載せてくれるのに、こんなものを書いてしまって! 14 枚、読んでいて退屈する。数カ所に引用させてもらった M 君、すなわち Sam のことばだけが光を放っている。しかし、それらにも、ぼくのまずい脈絡と暗くて単調な文章が錆をかぶせてしまいそうだ。——
(Sam)
明日試験なのだからといって、生物は自習にして貰った。しかし、何もすることがなく、あくびばかりしていた。先生の講義をノートしている方が、手が動いていて、退屈しない。
"He went to sleep, thinking of his mother back home." の訳だが、Ted だったら、「家にいる彼の母を想って」とするかい、それとも「彼の母が帰宅するだろうと思って」とするかい。
[引用時の注]
私が述べている『新樹』は、菫台高校生徒会発行の雑誌で、3 年生の卒業を記念する意味もあり、各年度末に 1 回発行されていた。私の文「反省点綴」は第 3 号に掲載された。高校生になったばかりの 4、5 月頃の心境について日記をもとにまとめたものである。手元には私が 3 年生のときの第 5 号しか残っていない。粗末な紙で、184 ページ。その号には、私が書いた創作「夏空に輝く星」(2 年生の夏休みに国語の宿題として提出したもの)と「ヘンリー・ライクロフトの手記」(ジョージ・ギッシング著の同書の紹介)が掲載されている。
「夏空に輝く星」といえば、われわれの学校の女生徒たちが、「恋愛小説?」「モデルは?」などと、そのうわさをしているのを、私の伯母が病院の待合室で、たまたま耳にしたそうだ。それは、『新樹』5 号の発行前だったから、この作品が掲載されることをあらかじめ知っていた生徒は、『新樹』編集委員会のメンバーということになる。5 号の編集委員長は同期の NK さんという女生徒だったが、彼女は体育祭の実行委員長もした頑丈な身体の持ち主だったし、家がその病院からは遠い区域だったから、そこへ来ていたとは考えにくい。うわさをしていたのは誰だれか? その謎を何十年ぶりかで、ふと思い出した。
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