2005年5月5日木曜日

ドレスデン国立美術館展


 さる4月28日、兵庫県立美術館で開催中の「ドレスデン国立美術館展―世界の鏡」を観に行った。ドレスデンはエルベ川に沿うドイツ東部の中心都市であり、16世紀以来、ザクセン公国の首都として繁栄してきたところである。この展覧会では、12の美術館・博物館の総合体であるドレスデン国立美術館から選りすぐった品じなが展示されている。それらは、近世から近代にかけて国際交流によって集められた、世界有数の美術コレクションの一部をなすものである。(写真は兵庫県立美術館の上部に掲げられている展覧会の看板を、斜め位置の陸橋から撮影したもの。)

 展示室は七つあり、「I ドレスデンの美術収集室」「II オスマン帝国―恐怖と魅惑」「III イタリア―芸術の理想」「IV フランス―国家の表象と宮廷文化」「V 東アジア―驚嘆すべき別世界」「VI オランダ―作られた現実」「VII ロマン主義的世界観」と名づけられていた。一瞬、ドレスデンはドイツの都市と思っていたのが間違いかと思わされるほど、このコレクションには各国の文化が映し出されている。展覧会の副題に「世界の鏡」とある由縁である。

 第 I 室へ入ると、まず、集光鏡、四分儀、天球儀、地球儀、渾天儀が展示されている。これらは美術品というより科学技術品であるが、集光鏡は鉱石等の溶解を観察するだけでなく、美術品の成分を調べ、また試し焼きをするなど、その使用は美術と深く関わっていたようである。また、渾天儀は天のメカニズムを思い描くために考えられたものであり、ここにも科学の探求心と芸術の創造性の融和がみられる。この展覧会を紹介する朝日新聞の記事 [1] が「科学と芸術 共存の時代」と題されていたことがうなずかれる。

 その記事は、今回の目玉であるヨハネス・フェルメールの「窓辺で手紙を読む若い女」(1659年頃;上掲の写真の中央にその一部が見られる)が、正確な遠近法を簡単に表現できるカメラ・オブスクーラを利用したらしいことも、科学と芸術の共存の範疇に入れている。私はデジィタル写真を参考にして水彩画を描くとき、写真をちょうど画用紙の大きさにしてコンピュータのモニターに表示し、必要に応じて物差しで計測もしながら、デッサンをする。また、彩色に当たっては、画像処理ソフトによって、明るさをいろいろに変えて写真を眺めることもする。これなども科学と芸術の共存であろうか。

 展示されていた絵画では「窓辺で手紙を読む若い女」のほか、ティツィアーノの「白いドレスの女性の肖像」(1555年頃)、カナレットの「ヴェネツィア、サン・ヴィオ広場とカナル・グランデ」(1722、23年頃)、カスパー・ダーヴィッド・フリードリヒの「月を眺める2人の男」(1819年)、エルンスト・フェルディナント・エーメの「サレルノ湾の月夜」(1827年)、ヨハン・クリスティアン・クラウゼン・ダールの「満月のドレスデン」などが見ごたえがあった。日本の伊万里焼とそれに習ったマイセンの磁器(模様や絵柄もほとんど同じものが作られている)が、幾組も並べて展示されているのも興味深かった。フランスの宮廷文化の影響を受けたザクセン最盛期の君主・アウグスト強王は、伊万里焼を熱愛したそうである。強王という名からは想像し難い、繊細な心をも合わせ持つ人物だったらしい。


  1. 加藤義夫、ドレスデン国立美術館展 世界の鏡:科学と芸術 共存の時代、朝日新聞夕刊、2005年4月8日

 
[以下、最初の掲載サイトでのコメント欄から転記]

テディ 05/05/2005 11:40
 ドレスデンといえば第二次世界大戦末期に連合国軍により徹底的な空爆を受けて壊滅的な被害を受けた都市として有名ですね。
 →4. ドレスデン爆撃(姫路城不死鳥伝説)
 →Bombing of Dresden in World War II(Wikipedia, the free encyclopedia.)
それらの美術品は戦火をくぐりぬけたのでしょうか?ドレスデン国立美術館展の Web Site を見てもそこらへんに触れた記述はありませんでした。

Ted 05/05/2005 17:04
 私も、その点を不思議に思っていました。最近テレビのクイズ番組「世界不思議発見」で、古代エジプト女王の像が、戦争中に他の美術品とともに岩塩の採掘坑へ疎開してあって、戦火をまぬがれたという話がありましたが、それらがドレスデン国立美術館のものだったかも知れません。

Y 05/08/2005 14:19
 兵庫県立美術館は、あの世界的な建築家の方がデザインされた、けれども少し不便なところにある美術館でしたでしょうか? 長時間かけて行ったことがあるのですが、混同していて…この美術展は行きたいですねー。私は京都の美術館については、あまり納得していないのです。博物館はいいのですが。それに、京都は土日の人出がすごいので、行列にもまれなければなりません。夫と一緒にしか行かないもので、土日になるのですが。
 ヨハネス・フェルメールの「窓辺で手紙を読む若い女」がありましたか、それは素晴らしいですね。科学領域に見出せる芸術性や美術、芸術創作に欠かせない科学的要素、というのは確かにあると思います。

Ted 05/08/2005 14:47
 そうです。兵庫県立美術館は安藤忠雄氏が設計したもので、JR灘駅から南へ徒歩約10分、阪急王子公園駅からならば約15分のところです。土日はやはり混雑すると思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿