Yさん
メール拝見。何人もの先生方に気に入られたとは、ご立派です。博士論文作成もすらすらと進むことと信じています。
ご専門の分野では、350枚が基本ですか。私が学位論文を提出した物理学分野では、専門誌に単独名で掲載された主論文一つと、ほかに何編かの副論文があればよいということでした。
私は修士課程を終了して就職後6年目に、就職先の大型実験装置を使っての研究によって学位論文をまとめたのです。相前後して就職した同僚たちも何年か後れて同じ装置による研究で学位を取りましたが、私がその装置で学位を取った第1号でした。
私が6年もかかったのは、次のような事情によります。その大型装置で精密測定をするには、その装置で加速された電子線の中から、エネルギーの揃った電子を電磁石で選び出し、分厚い放射線遮蔽壁中の穴を通して隣室へ導き、そこにさらに散乱槽という大きな真空の装置を設けて導き込む必要がありました。それらの付属装置の製造だけでなく、装置を収める隣室の建設までも待たなければならなかったのです。
初めはあせる気持ちがありましたが、次第に心を落ち着けて、ゆっくりと構えることが出来るようになりました。主論文はアメリカ物理学会の Physical Review 誌に投稿しました。刷り上がり12ページの、同誌としては長い方の論文です。当時は日本の研究者で同誌に発表する人はまだ少ないという状況でした。たまたま、アメリカの一教授が同誌に少し先に発表した同様の研究の結果が、測定値に大きな誤りを含んでいることを指摘する結果ともなりました。
その教授の論文を見つけたときは、先を越されたかと、一瞬どきりとしましたが、よく読んでみると、かえって私の論文をよいタイミングのものにしてくれていることが分かりました。人生において、何が幸いするか分かりません。
専門の異なる古い話ですが、何かご参考になるところがあれば幸いです。
ではまた。
Ted
Random writings of a retired physicist
Continuation of "Ted's Coffeehouse" (now being restored in archives of this site)
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2005年4月4日月曜日
学位論文のこと
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science
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