2005年4月30日土曜日

世界平和アピール7人委員会の核廃絶に関するアピール

 科学者の一人ひとりが「核兵器およびその他の大量破壊兵器の研究、開発、製造、取得、利用に一切参加しないこと」を誓う運動を進めているピース・プレッジ・ジャパンが、世界平和アピール7人委員会によってこのほど発表された核廃絶に関する二つのアピールを、上記運動の賛同者宛に昨4月29日、メールで送付してきた。有識者7人で構成するこの委員会は、日本の良識を示す、歴史もある委員会として知られており、同アピールをぜひ広めて欲しいということである。私はこれに賛同し、送付された全文を以下に紹介する。なお、これらのアピールは、世界平和アピール7人委員会:アピールページで表題をクリックして読むこともできる。

 核兵器使用60周年にあたり、改めてその実態、非人道性を直視するよう日本国民と日本政府に訴える

2005年4月20日
世界平和アピール七人委員会

 2004年末にインド洋沿岸諸国をおそった津波は、多くの生命、財産を奪いました。被害はそれだけにとどまらず、医学的、物理・化学的、さらには社会的、心理的な面にも及んでいます。この惨害は、多くの人びとが年末休暇を過ごしていた国際的リゾート地を被災地に含んでいたこと、発生が週末の午前中だったことにより、かつてない量の痛ましい映像記録を残し、全世界は、テレビ、インターネットを通して自然の脅威を目の当たりにしました。

 振り返れば、60年前に広島・長崎を壊滅させた核兵器の惨害は、規模においてこの津波の被害を超えるものでした。放射線の影響は、60年たった今日もなお消えておりません。しかも、核兵器による被害は、津波のような天災ではなく、人間が生み出した災害です。

 今や日本国内でも、この時代を経験しない人が3分の2を超えました。一般に、残忍なものは見たくも聞きたくもないとの心理がはたらくため、核兵器の残忍性は、忘れられかけています。ところが21世紀の今日の世界でも、核弾頭を搭載した数千発のミサイルが直ちに発射できる態勢に置かれています。核保有国は核兵器を使用可能にする戦略を立て、新型核兵器の研究も行うに至りました。核兵器を持つ国も増加し、核不拡散体制は危機に瀕しています。このような風潮の中で、日本の核武装についての議論が、わずかずつにせよ増加しています。

 核兵器の非人道性、特にそのむごたらしい被害についての情報は、日本に集中しています。核兵器を廃絶させるため、日本の市民には、これを直視し、世界にむかって発信する責務があります。

 私たちは、日本の心ある市民一人一人が、将来の世代と、全世界の人たちに、最も残虐な原爆被害の姿を大胆に展示することを含め、「人類は核兵器と共存できない」という信念をもっと広める努力をするよう訴えます。

 これと同時に日本政府が、新アジェンダ連合(1)などとの連携を一層強めるとともに、“核の傘”(2)に依存した政策を改め、日本を含めた東北アジアの非核兵器地帯(3)を実現させるための努力を速やかに開始し、多国間の平和的協議を積極的に推進するよう求めます。

伏見 康治
武者小路公秀
土山 秀夫
大石 芳野
井上ひさし
池田香代子
小柴 昌俊
事務局長 小沼 通二

注:
(1)新アジェンダ連合とは、核兵器廃絶を目指し、推進する中堅クラスの7つの国家、アイルランド、スウェーデン、エジプト、南アフリカ、ニュージーランド、メキシコ、ブラジルの連合をいう。2000年5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議では、世界のNGOの強い支持を受けて、核保有国から「保有核兵器の完全廃棄を達成することを明確に約束する」との合意を取り付ける成果を上げた。

(2)核の傘とは、非核兵器国が核兵器保有国の核抑止力に依存する状態のことである。日本は、最近では「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン、1997年)の中で、「日本は自衛のために必要な範囲内で防衛力を保持し、米国は核の抑止力によってそのコミットメントを達成する」として米国の核の傘の下にあることを明白にしている。日本のほか、NATOの非核兵器国や韓国なども同じ政策を取っている。

(3)東北アジア非核兵器地帯については幾つかの提案がある。その一つ「スリー・プラス・スリー」案についていえば、韓国と北朝鮮による「朝鮮半島非核化宣言」(91年12月)に日本の非核三原則を組み合わせ、これら3カ国からなる非核兵器地帯を設置し、核保有国である中国、ロシア、米国の3カ国は、これら3カ国に対しては核攻撃をおこなわない(消極的安全保障)という法的約束をおこなうのが骨子となっている。
 実際に、非核兵器地帯は世界各地に拡がっている。第1は、1968年に発効したラテンアメリカ核兵器禁止条約であり、今日ではラテンアメリカの全ての国が参加し、核兵器保有5か国すべてがこの地域で核兵器を使用しないことを約束している。1986年には、南太平洋非核地帯条約が発効し、核兵器だけでなく、核廃棄物投棄も禁止している。東南アジア非核兵器地帯条約も1997年に発効した。アフリカでは、まだ発効していないが、1996年に、非核兵器条約調印が行われた。モンゴルは1991年に、非核兵器国であることを宣言し、1998年には国連によってこの地位が承認された。南極地域では、1961年以来あらゆる軍事的措置が禁止されている。

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ジョージ ブッシュ アメリカ合衆国大統領殿
ウラジーミル プーチン ロシア連邦大統領殿
アンソニー ブレア 英国総理大臣殿
ジャック シラク フランス共和国大統領殿
胡錦濤 中華人民共和国国家主席殿

コピー:核不拡散条約再検討会議議長
セルジオ・ドゥアルテ大使殿

2005年4月20日
世界平和アピール七人委員会 
伏見  康治
武者小路公秀
土山  秀夫
大石   芳野
井上 ひさし
池田 香代子
小柴  昌俊
事務局長  小沼  通二

 核不拡散条約再検討会議に際し、核軍縮への具体的努力を求めるアピール

 核不拡散条約(NPT)が発効して今年で35年になります。本条約には、核兵器保有5カ国の核保有を認める一方で、その他の加盟国の核兵器保有を禁止するという不平等性を持っているとの批判が根強くあります。しかし、現在すでに約190カ国が批准書を寄託している、核軍縮をめざす唯一の重要な国際条約であります。

 2005年5月の再検討会議を目前にして、この条約における「核廃絶の約束」が、死文化させられかねない状況に陥っていることに、私たち世界平和アピール七人委員会は深い危惧を感じております。

 私たちの世界平和アピール七人委員会は、50年前の1955年に、核兵器開発競争が深刻に進む中で、ラッセル・アインシュタイン宣言に呼応して結成され、60年前の被爆国・日本から、世界に向かって平和を訴え続けてきました。

 私たちは、今年5月のNPT再検討会議に際し、核兵器廃絶に向けての実質的な成果を生み出すために、核兵器保有5カ国が真摯な努力をされるよう、次の通り要請します。

1  条約交渉における国際的約束の履行を
 1995年5月に核兵器保有5カ国は、核不拡散条約再検討会議において全会一致で採択された文書「核不拡散と核軍縮に関する原則と目標」に述べられているように「第6条に書かれている核軍縮の交渉を誠実に行う」ことを再確認しました。また2000年5月の再検討会議では「保有する核兵器の完全廃棄を明確に約束する」との最終文書にも合意しました。 これら一連の約束は、政権が代わっても、国際的、道義的に順守されるべき性格のものです。私たちは、その忠実な履行をあくまで求め、核兵器完全廃棄の確認を求めます。
 
2  核不拡散のためにも核軍縮を
 最近、「対テロ戦争」の名の下に、核兵器保有国の中に核拡散防止の重要性のみを強調し、核軍縮への努力を軽視する風潮があることに、私たちは強い憂慮の念を抱きます。
 核保有国自体が核兵器依存の政策を改めない限り、一部の非核兵器保有国がこれを見倣い、あるいは対抗することによって、核兵器の拡散はむしろ増大すると考えるからです。核兵器保有国が率先して核廃絶への具体的な道筋を示すことこそ、何よりの核拡散防止策なのです。私たちは、核兵器保有国が時期を明示した核兵器廃絶への道筋を明らかにするよう求めます。

3  「後戻りしない」核軍縮政策の確認を
 私たちは冷戦終結後の現在でも、核兵器保有国が戦略核兵器を使用可能な状態におき続けると共に、「使える兵器」としての小型核兵器の研究と開発を進めていることに抗議し、直ちに中止するよう求めます。
 核不拡散条約には、重要な原則として、核軍縮の不可逆性を守ることが謳われています。米国やロシアによる新たな小型核兵器の研究や米国での地下核実験再開に向けた動きは、明らかにこの趣旨に逆行するものです。私たちはそうした計画を永久に破棄することを求めます。

 以上、核兵器保有5カ国が、NPT再検討会議において、平和を願う世界の人々のこころをこころとし、真摯に課題に取り組み、歴史的な成果を上げられるよう要請します。

 以上

連絡先:小沼 通二(こぬま・みちじ)(物理学、慶應義塾大学名誉教授)
      〒247-0014横浜市栄区公田町200-9
      電話・ファクス:045-891-8386
      携帯:080-5463-3454
      メール: mkonuma254@m4.dion.ne.jp

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